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正気に戻ったら負け

人の願いの力~『遙かなる時空の中で7』五月ルート感想

遙かなる時空の中で』キャラクター感想第二弾、天野五月編です。五月ルートの暴走っぷりや彼の突飛な行動を理解したくてあれこれこねくり回してたら、ルート感想というよりキャラクター掘り下げ文みたいになっちゃった。今回は五月ルートに加えて幸村ルートのネタバレもあります。

五月の二面性

毎回恒例のトリップ現代人、主人公のお兄ちゃん。現代人が身内なのは『遙か4』や『遙か5』を思い出しますね。大和の雰囲気も那岐に似ています。シリーズファンはニッコリ。
星の一族、ゴーストバスター、戦国オタクと重要なステータスが揃った優秀な異世界ナビゲーターです。一緒にトリップする側なのにそんなチートでいいのか。

性格は穏やかで朗らか、押しが弱くてちょっと情けないところもあるシスコンお兄さん。ぽやっとした顔がデフォルトという、今までの青龍にはいないキャラクターですよね。
今作は見た目通りの性格に見せかけて実際は真逆の性質を持っているキャラクターが結構いますが(阿国とか)五月もこのタイプです。柔軟なようで強情、集団行動優先かと思えば自分勝手。宗矩に「ちゃんと情報共有してください」とか言ってたけどお前が言うな大賞だよ。
本人は無自覚ですが自己完結型の人間です。「周りに言う必要がない」「自分一人でできる」と判断したことは誰にも相談せず実行しちゃいます。ついでに大切な人に何かあると視野が狭くなりがちです。こういうところは豊臣家を想いすぎてカピタンに嵌められかけた三成とソックリですね。五月は似てないって言うけど正直お前ら双子メッチャ似てるからな。

彼にとって何より大切なものは七緒であり、「七緒が人間として幸せになること」が何よりの願いです。基本的に善人ですが七緒のためなら手を汚すことも躊躇いません。八葉に身代わり札配るシーンと術者のおじさんをボコボコにするイベントを見て私はテンション上がりました。いいぞいいぞ!!そういう男は大好きだ!!!
彼がなんかこうめんどくさい性格になったのは、双子の兄への複雑な感情と「妹」になった七緒の存在が影響しているんだと思います。

狭間の苦しみ

五月は天野家の双子の弟として生まれました。二卵性故か性格も能力も(表面上は)似ていない兄弟です。三鶴は天才タイプ、五月は秀才タイプだったんでしょうね。
幼い頃から優秀だった三鶴は思ったことを隠さず表に出してしまう性格で、弟への態度も例外ではなかったようです。幼少期に家族から与えられる言葉や態度の影響は良くも悪くも残るもの。五月の異様に強い劣等感は、ずっと隣にいた片割れとの能力差とその悪気ない言葉から生まれたんでしょう。

そんな五月はある日、「兄が目の前で時空の狭間に飲まれて消える」という強烈な体験をします。8歳の子供には酷な出来事です。
優秀で孤高、決して仲が良いとは言えない兄。そう思っていた片割れは弟を庇って一人姿を消しました。この時になって初めて五月は兄から愛されていたことに気付きます。兄から嫌われていると思い込み、羨望と嫉妬を向けていた彼はさぞかし大きな罪悪感を抱いたでしょう。
それだけでもかなりしんどいのに、残された五月は「兄」という立場を課せられることになりました。

三鶴と入れ違いにこの世界へやってきた少女、なお。天野家は彼女を「七緒」と名付け、「天野家の長女であり五月の妹」という仮初の記憶を植え付けます。星の一族パワー何でもありだな???
今まで甘ったれな「弟」だった五月は、皮肉にも自分の代わりに消えた片割れと同じ「兄」という立場にスイッチしました。まるでいなくなった三鶴の穴を埋めるかのように。
星の一族の能力は三鶴に敵わない。兄としての振る舞い方だってわからない。それでもいなくなったのは三鶴で、残されたのは自分です。五月に逃げ場などなく、目の前には守るべき神子であり「妹」である七緒がいます。
五月は優秀な片割れへの憧れと嫉妬と罪悪感を募らせながら、自分を兄の代打だと思い込むようになったようです。今時いねーよってくらいコテコテのお兄ちゃんキャラしてたのは、三鶴を意識して無理に背伸びしてたからだったんですね。
追いつけない兄と守るべき妹の間で劣等感を募らせ、自分自身の価値を見失った五月は、歪な自己認識を抱えたまま兄のいる世界へ辿り着きます。「もうすぐ頼れる魔法使いが仲間になるから、それまでは『偽物』のお兄ちゃんで我慢してくれ」なんて台詞が飛び出した時はハァ!!!!?????ブン殴るぞ!!!!!!と思いましたが、それまでの五月の心情を考えると拳を降ろさざるをえないんですよね……。
五月はあの日消えた兄に自分の立場を譲り渡すことで、兄への罪悪感や七緒への不甲斐なさを昇華しようとしていたんでしょうね。板挟みの苦しみから逃れるために。

魔法の呪文

突然降ってきた「兄」という役割ですが、五月は星の一族としてではなく家族として心から七緒を慈しんでいたようです。星の一族でありながら白龍の神子としての運命を遮ろうとしてしまうほどに、五月は何者でもない七緒を愛していました。
その愛情を注がれて育った七緒が、兄に対して同じ愛情を持っていないわけがないんですよね。うだうだと超絶後ろ向きなことを言い出した兄に、七緒は容赦なく喝を入れます。「私の『本物のお兄ちゃん』は、ずっと一緒に頑張っていくと決めているのは五月だ」と。誰かの代わりなんかじゃない、他でもない五月自身だと。
五月は「偽物」「兄の代わり」と自らを言霊で呪いながら、本当は心の奥底で七緒に自分を選んでほしいと渇望していました。七緒の言葉は五月の呪いを解く魔法の呪文だったんでしょう。
五月は兄への後ろめたさを昇華し、ようやく自分自身の価値を認めることができました。これからは兄の背中を追うのではなく、背伸びして妹の前を歩くのでもなく、七緒の隣に並んで歩いていく。五月が七緒を対等な一人の人間として、一人の女の子として見るようになったのはこの辺からじゃないかと思います。

七緒の言葉で色々ふっ切れた五月は、なんと共通ルート四章で「兄じゃなくて天野五月個人としてお前の隣にいたい」とか言い出します。はえーよ。初見の時は「あれほど兄を主張してきたのにそんな軽やかに捨てちゃう!!!???」と爆笑しましたし、一瞬個別ルート入ったかと思って滅茶苦茶焦りました。
最近まで血の繋がった兄だと思ってた上に、ついこの間『私のお兄ちゃん』と宣言したばかりの七緒からすれば、五月のこの発言はあまりに唐突で「何言ってんだコイツ」って感じです。しかしこうして五月の感情をなぞってみると、兄を辞めたい気持ちはわからなくもないです。
五月にとって「兄」という言葉は、家族の構成員というより「三鶴の代わり」「背負うべき責任」といった意味を持っていたのかもしれません。あの宣言は「与えられた役割ではなく、ただの天野五月として七緒に向き合いたい、支えたい」という意思表示だったんでしょう。それにしてもやっぱり個別ルートに入るまで待てなかったんか……とは思いますが。

これ以降の五月は七緒をバリバリ一人の女の子として扱います。超こそばゆい。兄妹だったのに今更間接キスとか恥ずかしくなっちゃうの可愛いな~~~~~~!!!!!
そして同時に「異常に喉が渇く七緒」とかいう不穏要素をブチ込んできます。あやめが話したのは「たつこ姫伝説」という伝承みたいですね。七緒の正体は四神の反応とかで薄々察してはいましたが……。

エゴという名の愛

個別ルートに入ってから、五月は七緒が龍になってしまう夢を見るようになります。『遙か3』の譲くんを思い出しますね。星の一族はいつも辛い……。
小さな白龍に出会って自分の夢が予知夢だったことを確信した五月は、死に物狂いで七緒が龍神にならない道を模索し始めました。
五月にとって七緒は大事な女の子です。ずっと一緒に頑張っていくと約束もしました。今更手放せる存在ではありませんし、いずれ人の身と自我を捨てて天に帰るなんて冗談じゃありません。

五月は何も語らずに七緒の龍神の力の使用を禁止し、怨霊を調伏し、他の八葉すら置いてけぼりにしてワンマンプレイに走ります。自己完結という悪癖と隠れた軍才と術士としての能力がいい感じに合わさってしまったんでしょう。五月の優秀さをこんな形で実感しとうなかった……。
七緒が遠隔浄化できると知った五月は、挙句の果てに一芝居打って七緒を現代に置き去りにしやがります。七緒は五月を殴っても許されると思う。大和はビンタできるのになんで五月はビンタできないんですか???????

この辺の五月の暴走、いやもうお前お前お前~~~~~~!!!!!!ってキレ散らかしながらずっとプレイしてて、五月ルートへのもやもやした気持ちは最近まで残っていました。でも幸村ルートをクリアしてから改めて五月ルートを見たら、これが五月の愛し方なんだなってストンと納得してしまったんですよね。
五月は本来思慮深くて優しい人間です。五月以外の八葉のルートでは、相手を想う七緒の気持ちを尊重していました。七緒が幸せになるならと、今生の別れになっても手を放してくれるんですよ。幸村ルートだって龍神になることに猛反対しましたが、それでも最後には身を切られる思いで二人の決断を受け入れました。それが二人が選んだ幸せだったから。
でも五月ルートの彼は違います。誰かの代わりではない、ただの「天野五月」という存在を七緒に認めてもらった五月は、自分の欲望をどうしても捨てられなくなった。今まで一緒に生きてきた人としての七緒を失いたくない。何のしがらみもない平和な人生を生きてほしい。たとえ七緒が悲しむことをしてでも。

五月は七緒の意志を無視し続けたこと、七緒を騙したことを詰られても「間違ったことをしたとは思わない」「好きなだけ責めてくれていい」と言い放ちます。「今ここで謝るのは自分が楽になりたいがためのエゴだ」とも。彼は自分の行動を「お前のためにしたことだ」「わかってくれ」とは絶対に言わないんですよね。責任転嫁をしない。全部自分の勝手な判断だと自覚した上で、その選択の責任を背負おうとします。批判も甘んじて受け入れるつもりでいる。鋼の意志です。
五月は七緒を閉じ込めている間に織田家の軍配者になっていました。穏やかで、平和主義で、スルーできる諍いにすら顔を突っ込んで仲裁していた五月が、「仲間とその大切な人みんなが笑える未来があればいいのに」なんて底抜けに優しい願いを口にした五月が、人を殺す戦に参加しているんですよ。七緒を守るそのためだけに。
五月の恐ろしいところは、この行動がただの勢いによるものではないということです。自分のエゴがどれほどの人の運命を変えるのか理解した上で、歴史の大局、数多の人の命すら背負う気でいます。「誰に何を言われようと、何だってやってやる」。その宣言通りに。

五月の愛はどこまでも一方的で、時には相手の心さえ傷つけるものです。言ってしまえば独り善がりで自己満足です。幸村のような相手の心を何より尊重する愛に比べたら、決して綺麗なものではありません。正直もっとやり方あるやろがいと私も思います。
でもたった一人の大切な人のためにがむしゃらに、必死に、恥も外聞もかなぐり捨てて行動するその姿こそが人間の愛だなぁと思うんですよね。どうしようもなく勝手で、どうしようもなく不完全で、どうしようもなく愛おしい。五月の愛は祈りの形をしています。
結果的に、五月のその祈りこそが七緒をこの世に繋ぎとめる縁になりました。

運命を変える力

五月の努力も虚しく、七緒は龍神の力を使って天に帰ってしまいました。でも五月は七緒のことを諦めません。ここで諦められるような生っちょろい愛情ではないのです。もはや執念です。
「魔法の呪文を探しているんだ。龍になって空に昇った女の子を取り戻す呪文を」という言葉にはじんわり来ました。この世界に来たばかりの頃「頼りになる魔法使い」を探していた五月はもういないんですよね。七緒の唱えた魔法の呪文が、五月を七緒だけの魔法使いにしてくれた。今度は五月が七緒に魔法の呪文を唱える番です。

五月は文字通り「神を引きずり下ろす」真言を見つけて白龍を召喚します。人としての記憶が消えかけていた白龍は、五月が渡した「手作りのお守り」と五月が呼ぶ「七緒」という名前によって人の身を取り戻しました。ここで「言霊」が活きてくるの、ニクいな~~~~!!!!!
五月が渡したお守りには神様のご利益なんてありません。ただ五月の「戻ってこい」という願いが込められていただけ。お守りと言霊、どちらも神様の力なんて籠ってないんです。人としての七緒を取り戻したのは人間の願いの力だったんですね。
ここの流れはよく考えると滅茶苦茶面白いです。よりによって「神社の息子で」「普段から神力バンバン使ってて」「龍神の神子に仕える星の一族の」五月が神様の都合なんざ知らねぇ!!!!つって神様を無理やり引きずり降ろして人間にしちゃうんですよ。最高にロック。神をも恐れぬ五月のエゴ、すさまじいですね。

「また龍神になるのが怖い」と本音を吐露する七緒に、五月は「お前の名前を呼ぶよ、何度だってこの地に呼び戻すよ」と約束します。二人はようやく「一緒に人として生きたい」という思いを共有できました。長かったね……。
ここの指輪渡すシーンの三番目の選択肢の七緒、ハチャメチャ可愛いくないですか???小悪魔の才能あるよ七緒。頑張れ五月。

関ヶ原の戦いに赴いた五月は、「石田三成」と名を変えた兄と再会します。いつ会うのかと思ってたら三成が五月のこと避けてたんですね。そりゃ会えなくても仕方ない。
弟を守るために関係を否定し、歴史通り石田三成としての運命を受け入れようとする兄を、五月は七緒と共に掻っ攫います。「お前の思い通りにはさせない、このまま違う名前で死なせてなんかやらないよ」と。つくづく清々しいエゴです。歪みねぇ。
五月の願いは、石田三成として死ぬはずだった三鶴の運命すらも変えてしまいました。

かつて自分の願いを押し殺していた少年は、どうしても譲れない願いを力に変えて運命に手を伸ばしました。その願いは死すべき人を生かし、神をも人に変えてしまった。
「流れ星」「言霊」「お守り」と、五月ルートには人が願いをかけるものが随所に散りばめられています。「人の願いの力」が五月ルートのテーマだったんですね。

余談ですが、三鶴がちゃっかり龍の鱗を数枚拝借していたこと、そして全てが終わった後何の相談もせず勝手に戦国へ帰ったのには爆笑しました。やっぱりお前ら双子は本当にソックリだよ。
三鶴には五月が三十路になって七緒と子供育ててるくらいのタイミングで帰ってきてほしいですね。五月に「老け込んだな」って言われたことそのまま返してほしい。

 

五月ルート、こうして振り返ってみると本当に幸村ルートと綺麗に鏡になっているんだなぁと実感しました。自分の願いを諦めていたのも同じ、「七緒」という存在に希望を見出したのも同じ、「七緒」という名前を愛したのも同じ。それでも二人の愛し方は、二人にとっての幸せは対極にあるんですね。七緒が人として生きなければ五月の幸せは叶わないし、七緒と一緒に人としての生を終えなければ幸村の幸せは叶わなかった。
いや今作の青龍すっっげぇな。基本的に仲良しなのに価値観の断絶が滅茶苦茶深い。幸村ルートで五月は幸村に食ってかかってましたが、五月ルートの幸村も五月に対して色々思うところがあったんだと思います。それを押し付けないところが幸村らしいですね。

五月ルートは結構好き嫌いが分かれるのかもしれませんが、私は滅茶苦茶好きです。神に近い純粋な愛し方をする幸村も好きですが、五月の人間らしい貪欲な愛し方は嫌いじゃない。一番人間くさいキャラクターかもしれませんね、五月。今作の推しです。
七緒と末永く幸せに生きてくれ。あとFDで三成ルートください。

英雄の願い ~『遙かなる時空の中で7』幸村ルート感想~

遙かなる時空の中で7』キャラクター感想、まずはプレイヤーのメンタルを悉く粉砕していった天の青龍・真田幸村から。がっつりネタバレしてますので注意。

 

運命を連れてきた男

初見の印象は生真面目爽やかヒーロー。最初からヒロインに好意的だったので「王道なシナリオになるのかな~」とぼんやり思っていました。恥ずかしながら戦国知識がよわよわで(無双シリーズ真田丸も未履修)真田信繁についてよく知らず、幸村は完全にノーマークだったんですよね。
ただ知人のネオロマンサーに「幸村は最後にしろ」と助言を受けたのでなんか嫌な予感はしてました。してましたけども。
まさかあんなシナリオぶつけてくるとは思わないじゃんか。
今作のダークホース、メンタルクラッシャー、感情の最大瞬間風速を更新した男。本当に最後にしてよかった。なんなら休日の前にクリアしたかった。あなたのせいで消えない傷が残りました。爽やかな顔してとんでもねぇことするなこの男????????

幸村は七緒が初めて出会う異世界人なんですよね。物語の始まり、七緒が「龍神の神子」になるきっかけを作った人物です。あそこで幸村と出会わなくとも七緒はいずれ長政や武蔵と出会っていたんでしょうが、それでも始まりが幸村なのはある意味運命だったんでしょう。彼は最初から七緒に「龍神の神子として乱世を救う」ことを望み、唯一「龍神として世界を救う」という七緒の意思に最後まで寄り添った男でした。
ノブレス・オブリージュを地で行くのは長政ですが、幸村の思考も基本的にこっち寄りなのかなと思います。彼は七緒が年若い娘だろうが異世界で平和に暮らしていようが一目惚れの相手だろうが「龍神の神子」という役目を果たすことを望みます。結構シビア。
ただ幸村が何より優先するのは相手の心なので無理強いはしません。その人が望むならばいかなる苦しい役目も全うすべき、という考えです。相手の気持ちを尊重し、本人が決めたことに納得すれば口を出さないところがよくできた人間ですね。
情に厚く、義を貫き、公明正大。敵対している長政や宗矩にすら礼儀正しく振舞います。我欲を見せず、人に依存したり行動を縛ることもありません。この幸村の人柄は素晴らしくもあり怖くもあります。だって人間らしい生き汚さが全然ないんですよ。自分の命さえも使うべきところに使えればいつ終わってもいいと思っている。
秀信が「幸村殿は危うい」と評したのもわかります。地に足ついてそうに見えて、ある日急にふっと消えちゃいそうなとこあるんですよこの男。このキャラ付けすらも死後輪廻の輪から外れて神に迎えられるフラグだと思うと心底恐ろしいよコエテク。

幸村の夢

半分聖人になりかけてる幸村にも数少ない煩悩がありました。家族への執着です。
人質生活が長く、上田に帰ってきたのもここ数年のことだったようです。彼は家族と穏やかに暮らすことを望んでいました。真田家、乱世の波に揉まれまくってたもんね……。
仲の良い兄には七緒への恋心を散々揶揄われ、家族揃って写真を撮りたいと言い、毒殺された弟の墓を何度も訪れていた幸村。関ケ原の戦いを目前にして兄が袂を分かった時には初めて激昂した姿を見せます。彼が理屈抜きに感情を動かすのは家族に関係することなんですよね。
幸村にとって、家族という存在は人質に出された自分の心の支えだったのかもしれません。人質生活は穏やかだったようですし「孤独ではなかった」とも言っていましたが、それでも一番心を許せる家族から長年引き離されるのは辛かったはずです。小さい頃から人知れず寂しさを募らせてきたんでしょうね。兼続や三成と一緒にやんちゃしてたのも、もしかしたらそういう鬱憤が溜まっていたからなのかも。
幸村は家族を殺されたことを忘れられず、家族と殺し合わなければならないことにも苦しみます。しかし英雄と虐殺者は表裏一体。戦の中で彼もまた誰かの大切な家族を奪っているのだという事実を付きつけられます。い、因果応報~~~~~~!!!!!!
いや戦をしてれば当たり前のことだし幸村もわかっていたとは思いますが、あえて恨み言を吐く敵兵をブチ込んでくるのは本当に容赦がない。これ本当に乙女ゲームですか???ファイアーエムブレム風花雪月じゃなくて?????
戦に身を置く幸村は被害者であり加害者です。彼は「家族と穏やかに暮らす」という夢からどんどん遠ざかっていきます。

そんな幸村の夢を拾い上げたのは他でもない七緒でした。彼女は幸村に花の種を渡し、一緒に楽丸のお墓の前にそれを植えます。いつか青く咲き誇る花を見る日が来ると信じて。「家族と花を見たい」という幸村が諦めかけた夢を繋いでくれたんです。
幸村は七緒に告白する時「私の家族になってくれませんか」と言いました。七緒は龍神そのもので、いずれ力を使って現世から姿を消す存在で、今まで夢見ていた家族の形にはなれないとわかっていて、それでもなお「家族になってほしい」と希うんです。幸村にとっての「家族」は彼がずっと願ってやまない希望であり、七緒が思い出させてくれた理想であり、彼にとっての最愛なんですね。幸村………………………………(嗚咽)
幸村は「龍神としてこの世界を救う」という七緒の意思を受け入れ、「友との約束を果たした後、七緒のもとへ行く」と約束します。責任感の強い二人らしい選択です。
幸村は義を通した自分がどういう死に方をするかわかっている。七緒は自分がやがて龍の身になってしまうことがわかっている。それでもその意志を曲げられない。だからせめて、全てが終わったら「家族」になりたい。真田幸村という男はそういう風にしか生きられない人間だったんでしょうし、彼の手を取った七緒もそうだったんでしょう。
現世の責務を全うした先に、願っても願っても手が届かなかった「愛しい家族と穏やかに過ごす幸福」が待っている。それならば幸村にはもう未練も後悔も迷いもありません。

日の本一の兵

いやもう大坂夏の陣のシーンが本当にすごくて。ボロッボロ泣いてしまったんですよね。戦場を駆け巡り家康を追い詰め、鬼神の如く槍を振るう姿。「日の本一の兵」スチルがあまりにもカッコよすぎて一瞬これが乙女ゲームだということを忘れました。額当てが欠け戦装束が汚れても、ギラギラと目だけが輝いている真田左衛門佐幸村。あの、本当にこれ、乙女ゲーム……………?
この大坂夏の陣で流れているBGMがメッッッッチャクチャ好きです。激しい戦いのバックに流れているのに、静かで神々しいメロディなんですよ。白龍の力を使う時のBGMに似ています。それがまるで幸村が人と神の領域の間にいること、これから天に迎えられることを示しているようで、いやほんと、すごい曲だな……………。
この曲、楽曲集を開いた時にタイトルが「英雄譚の終わり」だと知って膝から崩れ落ちました。「日の本一の兵」と呼ばれた男が戦いの中で散る様を「英雄譚の終わり」と表すんですよ。神なのか…………??????そもそも真田幸村専用BGMが彼の散り際に流れるなんて思わなかったです。コエテクのクソデカ感情、もといビッグラブを一身に受けた男じゃないですか………………真田幸村………………。
彼の命が尽きるその時、燃え盛る大阪城には慈雨が降り注ぎ、彼の魂は龍神に迎えられ天に上りました。苛烈な戦の中で倒れたとは思えないような、穏やかな顔をした骸を残して。
甲賀三郎伝説をなぞっている時点でただでさえ伝承バフ盛られてるのに、ここで「地上の英雄の魂が死して神に迎えられる」という古今東西の神話要素をブチ込むコエテクさん。流石としか言いようがないです。

幸村の魂が天に上った後、八葉一人一人が幸村の死を受け止める様を見せられて涙腺がお亡くなりになりました。敵対していた宗矩や長政、武蔵もその死を悼んでくれるんですよ。かつての仲間として、そして一人の武士として、素晴らしい生き様であったと。兼続の嘆きも心にくるんですよね……上杉家は徳川方だったんだもんな……兼続、史実的に仕方ないとはいえつくづく辛い役回りです。
一人現代に帰った五月が七緒のスマホの写真を眺めているのにも心をメタメタにされました。最後まで二人の選択を理解できなかった五月は、ただ二人の魂が幸せであることを願うことしかできない。五月ルートの彼を思うと死にそうになります。「妹が人として幸せになる」というたった一つの願いが叶わなかった五月に残されたのは思い出だけなんですよね。というか思い出が形になって残るのも逆にしんどいな…………五月…………。

英雄が辿り着いた桃源郷

神域に迎えられた幸村は、「七緒」という名前を呼ぶことで愛しい人と再会を果たします。この「名前を呼ぶ」という儀式、スチルも含めて五月と綺麗に対照になってて吐きそう。本当に恐ろしいシナリオ作り出してくれたもんだなァ!!!!!!
EDスチルの幸村がただの恋する男の顔をしているのも胸に来ます。彼は人として生き切った。友への義も役目も全て終えて魂だけになった幸村には、もう七緒への愛しか残ってないんですよ。全ての苦悩が抜け落ちたその表情が綺麗だからこそ、「ああ彼は人ではなくなったんだな」と実感して鳥肌が立ちました。

ぶっちゃけ幸村を死なせないシナリオを作ることは難しくなかったと思うんですよ。今までの作品にだって史実で死ぬ運命のキャラクターと共に生きるEDはいくつもありました。全てが終わったところでヒロインが「現代に連れていく」というお決まりの手法を取ることだってできたんです。
でも『遙か7』ではそれをしなかった。真田幸村は史実通り大阪で散りました。ヒロインが龍神の神子ではなくあの世界を守る龍神そのものだったから、気安く現代に帰れなかったというのももちろんあるんでしょう。それでも製作陣は確固たる意志であのラストを描いたんじゃないかと思います。「真田幸村」という武士の生き様を、幸せな恋愛のために安易に変えることを許さなかった。
武蔵ルートで真田ヤンキー幸村は「六文銭は三途の川の渡り賃」って言うんですよね。最初はぶ、物騒~~~~wwwwwwって笑ってたんですが、調べてみたらマジでそれを意図して作られた家紋だったようです(不勉強……)。「命を惜しまず戦う」という意味を背中に背負った「真田幸村」だったからこそ、その運命を捻じ曲げずあの終わりを迎えたんでしょうね。

ここまで歴史上の人物に誠実に向き合ってつくられたシナリオは初めて見ました。というか一発目で最高打点出しちゃって大丈夫???FDのEDのネタ無くなっちゃわない?????
二人が現世で結ばれなかったこの終わりを、私は不幸だとは思っていません。彼らは彼らの意思を貫いて生きた。その先に永遠の幸せがあるなら、きっと彼らにとってはそれがベストだったんだと思います。
二人が初めて出会った日、幸村は誰かに踏みにじられることなく花が咲き乱れる天野家の庭を「桃源郷のようだ」と言い表しました。七緒が幸村にもたらした「家族と花を愛でる平和な世界」という希望。苦難の人生を終えた英雄を待っていたのは、二人で植えたネモフィラが咲き誇る桃源郷でした。かつて夢見た世界で永遠の愛を手に入れた幸村は、今度こそ家族との幸せを掴んだのです。よかったね…………………(号泣)

幸村ルート、本当にもうシナリオの密度がとんでもなくて、物語でブン殴るぞ!!!というコエテクさんの殺意愛をしっかり感じました。いや本当にすごかった。ここまで心を揺さぶられたのは『遙か3』のリズ先生以来です。とても美しい物語を見せていただきました……ありがとうコエテク……ありがとうルビパ……。
幸村ルートへの不満はヤンキーモードが一回しか見れなかったことくらいですね。元ヤン設定、狂おしいほど好きなのでFDに期待してます。

『遙かなる時空の中で7』に感情を轢き潰されました

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私、遙かなる時空の中でシリーズが大好きなんですよ。コーエーテクモの乙女ゲーブランドが出している有名なあのシリーズ。いや大好きといいつつ全作プレイしてるわけじゃないんですけど、中学生の時に遙か3をプレイしたら見事にすっ転んでしまって。
繊細な人物描写、よく練られた重厚なシナリオ、細部まで作りこまれた世界観。「これただのイケメンとキャッキャする恋愛ゲームじゃないじゃん」と。その後の4や5や6も悲鳴を上げながら楽しくプレイさせていただきまして。もうこの作品が私のオタク人生の根幹にあるといっても過言ではないんですよね。


それがとうとう20周年の節目に『遙かなる時空の中で7』が発売するとのこと。しかも舞台は戦国時代。無双シリーズにはあまり触れてきませんでしたが、コエテクお得意のジャンルなのは知っていました。そりゃあ期待するってもんですよね。
発売当時他のジャンルに気が狂っていたのでしばらく手を付けられないでいたんですが、こないだようやくプレイしまして。


結論から言うと最高でした。

 

期待するとか言いながらもここまでだとは思ってなかったんですよ。これほどのゲーム体験を得られるとは全く予想してなくて。いや~~~~~~~~~~もう、言葉を失うくらいの衝撃でした。最後の幸村ルートをクリアしてから数日放心しちゃった。
一通りキャラクターを攻略して気付いたのは、「コーエーは今までの歴史を築いてきた人物を本当に愛しているんだな」ってことです。今までの作品にも言えることなんですが、今作7は特に強烈にそれを感じました。戦国時代に特別思い入れのない私ですら心が震えるストーリーだった。
そして、今作は今までのシリーズを愛してきたファンへの愛も詰まってるんですよね。今まで出てきたキャラクターの要素やシナリオの構造をさりげなくあちこちに散りばめている。その上で違う展開を見せてくれる。もう本当にそれが嬉しくて嬉しくて。今までの作品を踏襲しつつ、新しい世界を作り出した作品でした。20年の節目すごい。

 

攻略キャラクター一人一人に滅茶苦茶感情を揺さぶられて(特に幸村)(今作一のダークホース)、もうボロボロなんですけど、思考の整理も兼ねてキャラクター毎の感想をこれからちょっとずつ書いていけたらなと思います。というか青龍に関しては言いたいことがいっぱいあるんだよなぁ!!!!!!!

ファフナー感想文 〜一期パイロット編〜

前回書いたファフナー感想の続きです。パイロット第一世代について、アニメや小説、ドラマCDの内容に触れています。案の定長くなってしまいましたすみません………。よろしければお付き合いください!

 

羽佐間翔子

めっちゃ可愛い子出てきた~~~!!!!とはしゃいでいたら「親に付けられた名前の通りに死ぬ」とかいう絶望を叩きつけてきた子。どうしてそういうことするんですか????人の心がないんですか??????
容子さんはあんな言葉を遺されたのによく首を吊らずに生きていてくれたなと思っています。今思うと翔子の死がファフナーの洗礼でしたね。

翔子は優しく控えめで、身体が弱く華奢な、いかにも守ってあげたくなる女の子です。でも実は滅茶苦茶メンタル強靭。
彼女は恐ろしいほどまっすぐ一騎に恋をしています。無理に登校しようとして動けなくなった翔子を一騎がおぶって連れて行ったのがきっかけ、というのが青春!って感じで可愛いですね。「私の白馬の王子様!」ではなく「王子様の白馬!」となるところがすごく好きです。馬かよ。やっぱりどっかズレてて可愛いな翔子………。
彼女は「自分を助けてくれた、自分が甘えられる人」として一騎を好きになったのではなく、「自分にはない力強さを持った人、自分がこうなりたいと憧れる人」として一騎を好きになったんですよね。「追い付きたい、一騎くんの側で戦えるようになりたい」と願った。そういうところに翔子のストイックさというか、精神的な強さを感じます。滅茶苦茶頭も良かったみたいですし、仮に身体的ハンデがなかったら相当優秀な人間に育っていたんじゃないかな。
翔子が献身的な甲洋に見向きもしないのも、こういうところが理由なのかもしれません。彼女は自分を大事に守ってほしい訳じゃないんですよね。本当は強い自分でありたい。自分の意志を通したい。だからこそ甲洋がファフナー乗ろうとした翔子の意志を尊重した時、初めて甲洋に心の底から笑いかけたんだと思います。甲洋にとっては切ないことですが。
そんな翔子だから「一騎くんが帰る場所を護りたい」という強い想いが生まれたんでしょう。ただ帰りを待つんじゃなく自分が護るんです。このアニメの女の子たちはなんだってこんなに気高くて強いんだ???最高。
最終的に一騎へ想いを伝えないまま散ってしまいましたが、彼女は一騎との約束を守れたことが一番嬉しかったんだろうなと思います。初めて自分で決めたことをやり遂げて、ずっと夢見ていた通りに空を駆けた。残された人達に大きな傷を残しても、彼女にとっては満ち足りた終わりだったんでしょう。

小説を読んだ感じだと、翔子のパイロットとしてのポテンシャルは凄まじいですね。
彼女は度々激痛に見舞われる病気によって痛みや苦しみへの耐性を得ました。病気しがちな人ほど痛みや苦しみに鈍感になるといいますが、彼女のそれは度を超すレベルのものだったようです。小説のパイロット訓練と実戦でのバーサーカーっぷりを見るに、下手に痛みへの耐性がある分自分の体が壊れるまで戦ってしまうタイプだったんでしょう。あそこで死ななかったとしても、戦闘の度に重傷を負うパイロットになっていたんじゃないかな。
痛みへの耐性、想像力の豊かさ、自己否定によるファフナーとの一体化、そして戦意の源である一騎への恋心。それらが奇跡的に合わさった翔子は、一騎に次ぐ主戦力になれたのかもしれません。ただ、何もかもタイミングが悪すぎた。それだけなのに、それだけで翔子とマーク・ゼクスは失われ、彼女の決死の行動は批判されることになりました。
翔子が死んだ時の大人の態度は優しい人が多い竜宮島の中では異質に感じますが、あの時の竜宮島ってパイロットが少なかったり新国連に迫られられてたりで結構切羽詰まってる状況なので、そういう人もいるよな………と思います。悲しい話ですが、島民の命もかかっているので。
あと技師さんが怒るのもわかるんですよね。ファフナーって滅茶苦茶貴重な兵器なのに、いざという時に機体を捨ててでもパイロットを生かす機能をわざわざ搭載してるんですよ(コックピット射出とか)。パイロットだって少なくて貴重というのももちろんありますが、機体よりも人の命を優先する兵器を技師さんたちは必死に作ってくれているわけで。パイロットに機体も命もぽんと捨てられてしまったらそりゃ怒るよな……と思います。
ついでに彼女の死は総士に大きな影響を与えてしまうんですよね。ドラマCD聞いて吐くかと思いました。総士お前!!!!!!!???????
ただでさえ仲間を死なせないために厳しく指揮官してた総士が、よりによって翔子が自爆という手段を取ってしまったがために「仲間に自爆を選ばせないため」に汚れ仕事にまで手を染めてしまった。でもあいつならやりかねないというか、彼だからこそできてしまうんですよね。仲間を生かすためなら自分を犠牲にできる男なんですよ、総士………………………(嗚咽)
翔子の命を犠牲にした勝利は、総士の中で痛みと共に深い傷として残ったんだと思います。

翔子といえば真矢との関係ですよね。アニメだけの印象だと人に寄り添う真矢だから翔子と仲が良かったのかなぁと思ってたんですが、真矢には昔翔子を死なせかけたという罪悪感があったんですね。そういうの本編で言えよ!!!!滅茶苦茶重要な情報じゃねーか!!!!!
咲良に突っかかられた時に珍しく真矢が怒ってしまったのは、自分のそういう後ろめたさがあったからだったのかな。一方が罪悪感を抱えた友情って不健全な関係になりがちなんですが、この二人がそれでも親友だったのは翔子が真矢に依存していなかったからなんじゃないかなと思います。翔子は真矢に甘えたり頼ったりはしますが、自分の意志は強く持っています。真矢が心配しても本当にやりたいことはやろうとしますしね。
シミュレーション訓練で自分の海に飲み込まれかけていた真矢を助けたのは翔子でした。なんだかんだ真矢の方が翔子の強さに救われていたのかもしれません。翔子の存在は真矢の戦う理由にも深く根を張っています。

春日井甲洋

私の涙腺ブレイカー筆頭。気が付いたら推してました。悔しい。
一期後半からHAE、EXODUSの登場の仕方は本当にズルいです。マーク・フィアーを見るだけで泣きそうになる私を笑ってくれ。

アニメの甲洋って一期はとにかく翔子が好きで一騎に嫉妬してるイメージが強いんですが、小説を読むとそれだけじゃないんですよね。頭も顔も性格も良い爆モテボーイでちょっと興奮しました。
一騎から見た甲洋は「優しくて親切な博愛主義者」ですが、実際はもっと人間臭い子です。甲洋は博愛というよりも「良い人」であろうとする意識が強いんじゃないかな。
お馴染みのクソ親代表・春日井夫婦の元で育った甲洋には「両親から愛されたい、認めてもらいたい」という気持ちが強くあります。穏やかで人の良さそうな態度は「良い息子」になれば両親が認めてくれるかも、という気持ちから来ていたのかもしれません。
驚異的な頭脳と記憶力というサヴァン症候群の特質もあって、甲洋はお手本のような「優秀な子供」になりました。頭も顔も中身も良い、みんなの人気者の甲洋くん。でも彼は両親からの愛情も、好きな女の子からの愛情も手に入れることができません。恵まれているように見えるのに、本当に欲しいものは手に入らない子供。両親に愛されている幼馴染や、翔子の想いを独占する一騎への嫉妬は深かったことでしょう。
それでもドロドロした感情を隠し続けたのは、甲洋の思慮深さと底抜けの優しさ故なんじゃないかと思います。小説では一騎と特に仲が良かったようですし、アニメでも翔子の想いを尊重していました。愛情に飢えていたからこそ、人との関係を大事にしていたのかもしれません。

そんな甲洋の優しさでできた仮面は、一番大切な存在だった翔子を失うことで崩れ去ります。
ずっと翔子や一騎のことを想って自分の気持ちを抑え込んでいた分、その感情の反転が大きかったんでしょうね。甲洋は今まで抑圧していた感情を一騎への怒りに変えてしまいました。翔子の死を受け入れられず、感情の行き場がなかったのもあったのかな。そして胃が痛い展開のまま9話へ。
「一度覚えたことは絶対に忘れない」という才能を持った甲洋に「翔子って、誰だ………?」と言わせるのは本当にエグいですね。丁寧に心を折りにきよる。
でも彼は翔子という存在を完全に失いませんでした。心から愛していたのに死んでしまった女の子。彼女の存在が「春日井甲洋」という人格に深く刻まれていたからこそ、彼女への想いは彼が人であるためのよすがになったんだと思います。
フェストゥムになりかけた甲洋は「あなたはそこにいますか」「前はいたが今はもういない」というやり取りで自我を取り戻しました。翔子が死んだ事実を受け入れて「悲しい」という感情が生じた瞬間、甲洋は人間になったのかもしれません。涙を流す彼の瞳は元の色でした。
総士は物理的な「痛み」によって人間として存在を確立しましたが、それに対して甲洋は「悲しみ」によって人間(というか人間主体の融合体)として存在を確立したんでしょう。存在していなければ誰かから傷つけられることがないように、存在していなければ誰かの死を悲しむことはできませんから。

彼の心象風景は分厚い氷に覆われた海です。氷は甲洋の本音の蓋であり、彼と彼を取り巻く世界を分かつ壁でもあるのかなと感じています。どれほど渇望しても欲しいものには手が届かず、自分のドロドロした本心を心の底に沈めていく。甲洋の苦しみと諦念が見えて切ないです。
でも彼の暗い海の下には暖かい海流があるんですよね。どれほどやりきれない想いを抱えていたとしても、甲洋の根っこには温かな優しさがある。
中枢神経を同化された後、目覚めた彼は「助けてくれてありがとう」「確かに遠見を助けたぞ、一騎」って言うんですよね。フェストゥムに自我をほとんど食われて残ったのは「感謝」と「仲間を守るという意志」だった。これが彼の本質なんだと思います。だからこそ彼は「島のみんなを守る」という翔子の願いを引き継いで戦い続けたんでしょう。
そういえばスレイブ型の甲洋の体、澄んだ青色なんですよね。「大きな海」を表す名前を持った彼は、海の中で仲間を助け、海の色の体を得たんだな………と気づいて膝から崩れ落ちました。

HAEでの登場はマジで不意打ちだったので感情を滅茶苦茶にされました。そんなオイシイところで出てくる!?しかもまた「海の中で味方を助ける」んですよ。本当にズルい男です。
EXODUSではそれまでの展開に絶望感マシマシだったところへ颯爽と(しかも人の体を得て)戻ってきたのでもうダメでした。「確かに助けたぞ」って!!!!!!しかも助けたのマーク・ゼクスの後継機!!!!!!お前!!!!!!ウ゛ワ゛ーーーーッッッ!!!!!!!(号泣)
ていうかマーク・フィアーの戦闘カッコよすぎませんか?漆黒の機体ってだけでもカッコいいのに、ワームをロングソードに変えて戦うってなんだよそれ。心の中の小学生男児がはしゃいじゃうだろうが。彼のSDPの「毒」については解釈の答えが出ていないので言及は避けます。
そういえばちゃんと19歳の体になってるんですよね彼。可愛い顔から落ち着いた美形顔に成長したので動揺しました。おいそんなイケメンになるなんて聞いてないぞ。しかも身長も高いの????モデルか?????勘弁してください。
BEYONDでは楽園で働いてると聞いたんですが、あんな爆モテイケメンが店員してたら楽園に女性客が殺到してしまうんじゃないですか?大丈夫??
EXODUSではまだ自我がふわっとしていたのかあまり喋ってくれなかったので、BEYONDでたくさんセリフがあることを期待しています。

甲洋、小説で実は一騎と特に仲が良かったという事実が判明してビックリしたんですが、読み進めていくうちになるほどなぁと納得しました。遠いようで近い立場だったんですね、彼ら。
果し状を貰う一騎とラブレターを貰う甲洋。スポーツの王者として頼られる一騎と優しい素敵な男の子として好かれる甲洋。どっちも人気者なんですが、一騎が本当に欲しいのは英雄ともてはやされたり賭けのネタにされる名声ではないし、甲洋が本当に欲しいのはたくさんの女の子から捧げられる愛ではないんですよね。でも彼らは「天才」「人気者」として周りの人から悪意なく線を引かれる。サヴァン症候群の子供の中でもわかりやすく異質な才能だったからこその苦悩です。お互いそういうところに共感したんでしょうね。
でも二人は対等ではなかった。お互い本当に欲しいものは得られない、でも一騎は甲洋が欲しいものを持っている。親からの愛も、好きな子からの愛も。何事もなければ表面上だけでも保っていられた二人のバランスは、翔子の戦死によって完全に崩れてしまいました。それまでの甲洋の我慢を思えば無理もないんですが、一騎にとって親友と思っている友達から憎まれるのはしんどかっただろうな………。
甲洋が「仲間を守れなかったお前とは違う、俺は仲間を守る」と宣言した通りに仲間を助けて一騎の目の前で同化されてしまったの、一騎の自己嫌悪に凄まじい勢いで拍車をかけたんじゃないかと思います。元々底無しの自己否定を抱える一騎は、二人を守れなかった自分を責めるばかりで、友達の死をちゃんと悲しむことができていなかったのかもしれません。
その後甲洋は、翔子の死を受け入れることで一騎への怒りを悲しみに昇華しました。翔子の死を受け入れられなかった甲洋も、死なせてしまった後悔に苛まれていた一騎も、「何故守れなかった」と問うのではなく、ここでようやく彼女の死を受け入れ悲しむことができた。彼女を想って泣くことができた。よかったね………。

要咲良

姉御可愛いよ姉御。気が強いけど実は女の子らしい繊細さを持っているところがツボです。
彼女も本編通して成長が著しいキャラクターですね。本当に生きててくれてよかった………。

武道のお家の生まれらしく、咲良は真面目でストイックな性格です。サヴァン症候群による才能もありますが、彼女の自信は積み上げてきた努力に裏打ちされたものなんでしょう。その努力の成果を天才的な資質を持つ一騎にへし折られたんだから、咲良にとっては屈辱だったでしょうね。そりゃあ闘争心を燃やすってもんです。
彼女は常に心身共に強く逞しくあろうとします。武道家であり警察官でもあった父への憧れ故でしょうか。その意識が強いあまりに自分の弱みを見せようとしません。というか自分の弱さを認めたくなかったんでしょうね。だから人の心を敏感に察してしまう真矢のことが苦手だったんだと思います。真矢への態度は、自分の心の弱い部分を覗かれることへの防衛反応だったのかも。
意地っ張りな自信家ですが、本当は父のような自分より強い存在に守ってほしいという気持ちを抱いていました。世話焼きで人に上手く甘えられない子なので、「誰かを頼りたい」という欲求がそういう形で育っていったのかな、と思います。

しかし彼女は憧れであり精神的支柱だった父を殺され、仲間も失うことになります。負けん気の強さは敵への憎悪と復讐心に変わり、余計に弱みを見せられなくなっていった。
咲良は敵に同化されかけたことで初めて死への恐怖と向き合い、自分の弱さを認識したんだと思います。憎悪だけで突き進んでいた彼女は、ようやく足を止めて周りを見渡せるようになった。敵が恐ろしい存在だということ、自分は命を賭してそれと戦っているということ。そしてそんな自分を心配する母親や、自分を守ろうとする仲間の存在。そういったものに向き合えた。
ここから肩の力を抜けるようになったのか、態度が柔らかくなりましたね。序盤は距離があった真矢とも仲良くなれたようですし、剣司ともいい感じでニッコリ。中合わせで手を繋ぐ両想い恋人未満の少年少女、可愛い~~~~~~!!!!

その矢先に同化現象ですよ。本当にこのアニメは容赦がないな。狂い咲きの桜が散る中で咲良が同化されていくシーン、ぞっとする演出です。
心が消える間際に咲良が呼んだのは、お母さんではなく剣司でした。咲良はとっくに剣司に心を許していたんですよね。意識を失った後も剣司の手を握る咲良が切なかったです。
咲良回復時の描写はありませんでしたが、彼女は意識が戻った途端に何もかもが変わっている現実を突きつけられます。自分が死にかけている間に戦いは終わっていて、大切な幼馴染だった衛はもういない。一緒に合宿をした優しい先輩も死んだ。幼馴染の母親も、お世話になっていたメカニックも、見知った人たちがたくさんいなくなった。そして彼女の前には変わってしまった剣司がいる。
咲良が倒れ、衛を目の前で殺され、一度は戦いから逃げて家族も失った剣司。「誰かを守るために戦う」と決めた剣司は、ただのお調子者で臆病な少年ではいられなくなりました。全ての事情を知った後、咲良は「剣司を支えよう」と思ったんじゃないかと思います。「しょうもない奴」だと前を歩いて腕を引くんじゃなく、隣に立って守ろう、支えようと思ったのかもしれません。EXODUSで剣司のコーヒーを奪い取って「一緒に背負わせな」と言い放つシーン、滅茶苦茶心が震えました。姉御……!!!
一期からEXODUSに至るまでの間に自分の弱さを受け入れたこと、その上で戦う決意をしたことで、咲良は大分精神が安定しましたね。足が不自由なこともあり変性意識もポジティブなものに変わっています。元気になれて本当によかったね、咲良………。

EXODUSで剣司と結婚した後、咲良は「あたしも乗るわよ、まだ電池切れじゃない」と言います。「電池切れ」という言葉を最初に言い出したのはあのクソ親ミツヒロで、子供たちを消耗品であるかのように語ったのが発端なんですよね。咲良が倒れた後ですが、剣司も「俺たちはただの電池なんだ」と残酷な事実に絶望していました。
でも咲良はあえてこの言葉を使います。「自分はファフナーを動かす電池である」という事実を受け入れた上で、むしろそれ故に戦えるのだと決意を固めたのかもしれません。死にたくないと泣き叫んだ彼女は、それでも寄り添う人のために戦うことを選んだ。大切な人と、仲間と生きるために。本当の意味で強くなりましたね。
このシーンでニーベルングの指輪の跡が付いた二人の手に結婚指輪が光っているの、死の運命を二人で超えようとする暗示のようで胸が熱くなりました。

咲良はやっぱり一期の三人組の関係が可愛いですよね。ちょっと情けない男たちと強気な女の子の組み合わせ大好きです。
初期の咲良にとって剣司や衛は「世話を焼いてやらなきゃいけない舎弟」みたいな存在でした。でも実際はこの頃から剣司や衛に支えられていたんじゃないかなと思います。
この三人、姉御肌の咲良、お調子者の剣司、おっとりした衛と友人関係的にもバランスのいいんですよね。気を張りがちな咲良が肩の力を抜くために二人が必要だったんだと思います。まだまだお馬鹿ですが剣司は剣司なりに咲良の力になろうとしていましたし、衛は何があっても二人を守ろうと決意していました。なんだかんだ強がりな咲良を支えようとする人は、最初から彼女の周りにいたんですよね。そういう魅力がある女の子なんだと思います。

近藤剣司

本作一成長した男。作品が違ったら主人公ポジションにいるキャラクターだと思ってます。一期からEXODUSまで視て滅茶苦茶好きになりました。良い男になったな、剣司………。

剣司は明るくて調子が良いクラスに一人はいる少年です。呆れられながらも親しまれるタイプですね。
お馬鹿だったり大ボラ吹いたりファフナーに乗れば臆病になったりと、初期は頼りなさというか精神的な弱さが目立ちました。でも剣司のメンタルってごく一般的な人間のレベルだと思うんですよね。周りの人間にメンタル強者が多いだけな気がします。一騎や総士は言うまでもなく、真矢や翔子や衛も穏やかなようで実は頑丈な精神を持っていますし。剣司の強さ、剣司の魅力は「弱さからの脱却」にあります。

一期の剣司は突然降ってきた非日常に素直に動揺し、それを受け入れられませんでした。束の間の日常にいる時が一番生き生きしていましたね。平和と文化を保存するために竜宮島を作った大人たちにとっては「こうなってほしい」という願いを正しく叶えている子供だったのかもしれません。真矢が「日常を忘れない者、非日常に身を置く者の帰る場所」として日常の象徴だったのに対して、剣司は「日常の中で生きる者、日常を愛する者」として日常の象徴なのかな、という印象でした。
彼が日常を愛するのは変化を恐れているからです。シミュレーション訓練での心象風景は、綺麗なサンゴ礁がある温かくて穏やかな海でした。心象風景の中で剣司は「ずっとここにいたい、ここから動きたくない」と言っています。彼の内面って意外と消極的なんですよね。
初期の剣司は咲良のように家族を殺されたりしていないし、一騎のように誰かへの罪悪感や自己否定も抱えていないし、衛のようにヒーローに憧れたりもしていません。積極的に戦う理由がないんですよね。母子家庭ですが母親には叱られつつも愛をもって育てられたようですし、咲良や衛のような仲の良い友達と平和に学校生活を送っていました。そりゃ変わらない日常にいたいと思いますよね。自分も仲間も死ぬかもしれない戦場になんか行きたくないです。
でも剣司は戦いに参加しました。大事な女の子である咲良を支えるために。ただその一つの想いだけで、嫌だ怖いと思いながらも剣司は戦えるんです。どんなに自分が臆病でも、大切な人のためならそれを捻じ伏せて戦う男なんです。後々育つ剣司の強さの本質はこれなんでしょうね。カッコいいぞ剣司。
剣司は咲良だけじゃなく仲間のことも大事にしています。カノンに銃を向けた時も当てるつもりはありませんでしたし、自分より遥かにシビアな戦場を経験してきた道夫にも「あんたが同化されかけたら助けてやるよ!」なんて言ってのけます。どんな状況でも仲間を助けること決して諦めないんですよね。彼のそういう優しさと強さに、人類軍で仲間を殺さなければいけなかった道夫とカノンは救われたんじゃないかと思います。
剣司は戦いが進む中で(衛のアシストもあって)咲良が頼れる、咲良を守る男になるために腹を決めます。少年漫画の主人公のような成長を感じますね。彼の真っ直ぐな心は眩しさすら覚えます。

いい感じに成長していた剣司ですが、そんな彼の心は咲良の同化現象と衛の死によってぽっきり折れてしまいました。ごく正常な反応です。大切な女の子が生死の境をさ迷い、親友が死ぬのを目の前で見てしまったら、普通すぐに「仇を取ってやる!」なんてなりません。平和な日常を愛していた剣司は、その日常の中心にいた存在を戦いによって失ってしまったんです。何もかも嫌になって逃げだして当然です。
でも敵は去ってくれないし戦いが都合よく終わることもありません。剣司が戦線から離脱してる間に、彼はたった一人の家族である母親も失ってしまいました。なんでそこまでするんですか???????彼まだ中学生なんですけど???????
仲間が死ぬのが怖い、自分が死ぬのも怖い、それで逃げ出しても結局周りの人たちが犠牲になっていく。そのまま目と耳を塞いで現実から逃げ続けることもできました。でも剣司は、誰かを守るために恐怖も絶望も押し殺して戦うことを選びます。優しい彼はどうしたって身近な人たちを捨てられないんですよね。立ち上がるきっかけになったのは、どんな時も仲間を守り続けた衛の存在だったのかもしれません。
剣司の戦う理由は、漠然と抱えていた「咲良を支えるため」というものから「誰かを失わないため」に固まっていったんじゃないかと思います。穏やかな日常に包まれていた剣司の少年時代はここで終わったんでしょうね。

一期後半からHAEではまだ敵にビビっていますが、HAE後半から剣司は一切恐れを見せなくなります。戦闘経験が浅い後輩ができたからですかね。彼は守るべき存在ができるほど強くなれる男なのかもしれません。里奈のコクピットを救出して広登に渡した時の「絶対離すなよ」が死ぬほどカッコよかった。彼の成長が嬉しくもあり、弱いままでいられなくなったことが切なくもあります。
もともとあった戦闘センスも磨かれてファフナー部隊の重要なフォロー役になりましたね。アハトの重火器戦は本当にカッコいい。剣司はあまり死亡フラグを立てないから剣司が助けに来ると安心すらします。ずっと生き残っててほしい。
EXODUSでは不在の総士に変わってジークフリードシステムを使っていました。総士の同時処理能力で操作していたシステムを直感力で操作するの、なかなかの離れ業では??剣司って本気を出せば滅茶苦茶有能なやつだったんですね。一期じゃ勉強不得意そうだったのにしれっと医学の道に進んでるし。恐ろしい男………。
指示役としてしっかり活躍しているので、案外生徒会長は向いていたのかもしれませんね。
そういえば剣司、よく考えると総士に近い立場なんですよね。片親を殺されているところとか、みんなの指揮を執る立場にいるところとか。現時点でジークフリードシステムを経験してるのは二人だけですし、一騎とは別の意味で剣司は総士の理解者になれたんじゃないかと思います。だからこそ総士も剣司の指揮の元で伸び伸び戦えたのかも。総士がちょっとだけ甘えられる貴重な仲間だったのかもしれません。

剣司といえば咲良との関係ですが、EXODUSではついに結婚まで漕ぎつけててスタオベしました。ありがとう………おめでとう………切ないけど………。
結婚間際で死んだ男がいたのでちょっと怯えていたんですが、そういうフラグがなくてよかった。CMを見た感じだとBEYONDではベビーがいるみたいですね!?可愛い~~!!!!(EXODUS見るまであれが剣司だと気付いてませんでしたすいません)
剣司、EXODUSで感覚がなくなるとか温度を感じなくなるとか結構エグい同化現象を抱えてますけど今後どうなるんです???治りますよね???このままだと生まれた我が子の柔らかさも体温も感じられないとかいう地獄が待っているんですけど????剣司、頑張って治療法を見つけてくれ………頼むよ………。

小楯衛

名前の通りに死ぬキャラその2。一期視聴中の私の心をバキボキに折った子。死亡シーンがあまりにもキツ過ぎて、今まで死んだキャラそれほど残酷な死に方じゃなかったな……とさえ思いました。まぁこの後これを上回るトラウマを植え付けてくる男が出てくるんですが。
彼が後に残したものはすごく大きいと思っています。

衛はおっとりしていて優しい癒しキャラですね。集団の中に一人は欲しいタイプです。あと顔がふくふくしてて可愛い。声も斎賀みつき。可愛い。
強気な咲良やお調子者の剣司といつも一緒にいるので目立つタイプではなかったようですが、なんだかんだ思ったことは素直に口に出すマイペースさがあります。どうでもいい話してる時とか割と人の話聞いてないよね。個人的に夏祭りでカノンにゴウバインのカッコいいポーズを教えるシーンが滅茶苦茶好きです。
おっとりマイペースな衛ですが、結構思慮深い子だと思っています。彼の優しさは気の弱さ由来のものじゃなく、相手のことをちゃんと考えているからこそのものなんじゃないでしょうか。

ドラマCDで「剣司たちに無理に付き合う必要はない」と言う一騎に、衛は無理に付き合ってる訳じゃないこと、剣司が訓練に参加した本当の理由を語ります。剣司のことをよく理解しているんですよね。もちろん咲良のことも。彼らが本当は強い人間ではないこと、でもちゃんと戦う理由を持っていることを理解していました。その上で使命感とかではなくただ「二人が好きだから」一緒にいた。彼は使命感とか義務感とはあまり縁がないんですよね。「自分がどうしたいか」が行動の主軸になっています。
総士にフォーメーション変更を提案された時も、「剣司と咲良の三人がいいや」と断っていました。二人を支えなきゃいけないからとかではなく「僕が二人と一緒にいたい」という衛の気持ち、本当に純粋な友情が眩しくて目を焼かれます。気を張っている咲良や調子に乗りすぎる剣司は、そんな彼を信頼して甘えていたのかもしれませんね。

衛は愛読している漫画「機動戦士ゴウバイン」のヒーローになりきって戦闘に出ていました。自分はヒーローだという自己暗示があるからこそ強気な戦い方ができた。そんな彼は、ゴウバインの作者が自分の父・保だと気付いてしまいます。
アルヴィスで働く父がロボットに乗って戦う少年の漫画を描いていた。衛の立場からすれば、この事実は「自分たちを戦闘員として教育するために描いていたんじゃないか」と取ることもできます。多分普通の息子だったら怒るか失望してるかもしれません。
でも行美ばあちゃんの話を聞いた衛は父を責めなかった。保がアルヴィスの人間として第二種任務をしていたのではなく、ただの一人の父親として息子を喜ばせるために漫画を描いたことを信じました。ディスコミュニケーションな親子が多い中、小楯家は放任なようでいてちゃんと親子間の信頼が築けていたんでしょうね。衛は正しい形で父の愛情を受け取りました。

この父の想いが彼の心に変化をもたらします。衛は訊かれなければ積極的に自分の意見を言うタイプではありませんでしたが、自分の意志をはっきり口にするようになりました。剣司には咲良へ気持ちを伝えるように言い、「自分が二人を守る」とまで宣言します。戦う理由が「二人と一緒に居たい」から「仲間を守る」に変化したんでしょうね。自分で決めたことを貫く意志の強さがここで目覚めたようです。
衛はゴウバインという仮面を被って戦うのを止め、「小楯衛」として誰かのために戦うようになりました。ヘルメットによる自己暗示がない戦闘は心底恐ろしかったでしょう。それでも彼は逃げ出すことなく、命が散る瞬間まで戦い続けます。彼の生き様は本物のヒーローでした。
衛が示した意志の強さ、そして何があっても仲間を守ろうとする姿は、遺された剣司やヘルメットを継承した‪広登‬にも受け継がれていきます。もし彼という存在がなかったら、今のファフナー部隊はもっと脆弱だったかもしれませんね。

ファフナー搭乗時、咲良は憎悪、剣司は臆病という変性意識を得ました。ここで衛が先導タイプになる変性意識(というか自己暗示)だったのは意外でしたが、いざという時暴走しがちな咲良や臆病になる剣司を良い感じに補っているんですよね。つくづく衛は縁の下の力持ちです。
衛を失うことでこのバランスは崩れ去りますが、剣司は「衛みたいに強くなりたい」と願い、咲良はその剣司を支えようとして前を向きました。一期の不安定さは影を潜め、二人はお互いや仲間を守るために戦うようになります。死んでしまってもなお衛の意志は二人の中で生き続けているんですよね。
彼の存在は近藤夫婦や仲間の中にいつまでも残り、先を照らす光になるんじゃないかと思っています。

カノン・メンフィス/羽佐間カノン

一期後半で滅茶苦茶好きになり、EXODUSで心をメタメタにされました。生き様がただただ美しい子。EXODUS17話EDで体中の水分干からびるかってくらい泣きながら「愛すること」をiTunesで即購入したのはいい思い出です。
彼女はこの作品の中で剣司に次いで成長したキャラクターだと思っています。

カノンは一騎たちが初めて出会った人類軍のパイロット。クールな軍人でしたが、作中屈指の人生ハードモードキャラでもあります。
竜宮島は偽装鏡面によって軍備を固めた上で平和を保つ余裕がありましたが、カノンは自分や家族の命を守る術すら持たず、ただ蹂躙されるしかない環境で生まれ育ってきました。一期では島の外の状況について詳しく説明されませんでしたが、EXODUS(長尺版)を見ると改めてカノンの生きてきた世界の悲惨さがよくわかりますよね……。
道生がカノンのことを気にかけていたのは、自分が助けた命だからとか自分の部下だからというだけでなく、自覚のないPTSDを抱えている彼女を心配していたからなのかもしれません。

家族や友達を殺され、あの幼さで兵士になったカノン。家族の仇を取るとか、自分のような人を救うとか、前向きな心による決断ではなかったんでしょう。後に一騎に見抜かれた通り、彼女は大事な人達を失った悲しみに耐えられず「消えたい」と願っていました。
命令に疑問を持たず従うのも、自分の命を投げ出してしまえるのも、自分という存在を消してしまいたかったから。「どこにもいない」カノンは自分を空っぽの器だと思っていたのかもしれません。
でも人間ってそう簡単にいなくなれないんですよね。それをカノンに教えたのは一騎でした。
カノンとなんとか話をしようとする一騎の質問、一見不器用にも見えるんですが、滅茶苦茶的確なところを突いています。生まれた国や家族は自分のルーツであり、自分という存在を定義する重要な要素ですから。
カノンとの対話の最後に一騎は「カノン」という名前の意味を尋ねます。彼女は自分に与えられた名前の意味を、母の想いをちゃんと覚えていました。結局はこれが答えなんですよね。
名前は生まれて初めて他者から与えられる自分の定義であり、自分と他者を区別するために必要不可欠なものです。名前があるということは存在していることの証明でもあります。それを手放さず、与えられた名前の意味を忘れられなかったカノンは、最初からいなくなることなんてできていなかったんです。彼女が空っぽだと思い込んでいた器には、まだ大切なものが残っていました。

竜宮島に迎え入れられたカノンは、今までになかった価値観に出会います。竜宮島の平和はカノンにとって未知との遭遇ですが、彼女は少しずつそれを受け入れていきました。道生が言う通り根が素直で可愛いですね。
敵だった自分を養子として迎え入れた容子さん。同世代との学校生活。仲間との合宿。何があっても仲間を見捨てないパイロット達。そして死者を弔う灯籠流し。竜宮島が大切にしているもの、島に生きる人達の想いは、カノンの器を少しずつ満たしていったんでしょう。竜宮島からたくさんのものを受け取った彼女は、自分の意思で島を守ることを決めました。体にフェストゥム因子を打ち、彼女は竜宮島を自分の居場所として定めます。
一期の蒼穹作戦時、フェストゥムに対して「前はいなかった。でも今はここにいる!」と言い放ったシーンがアツすぎて泣きました。カノン、成長したね………。

カノンの心象風景は海を渡る船です。最初の頃の朽ち果てた船は、ベイバロンを壊され戦う術を失った彼女の無力感を表していたようです。抜け殻のまま海を彷徨う船は、大切な人々を失って空っぽになりかけていた彼女自身でもあったのかもしれません。
カノンは船の周りを漂う火をヤコブの火」と言いました。海で迷う者を導く死者の魂。その一つ一つが今は亡き大切な人達であり、船の先に灯る火は彼女の母です。この光景こそがカノン自身自覚していなかった本心なんですよね。
いなくなりたいと願いながら故郷や母から貰った名前を捨てられなかったように、カノンが失ったものは彼女の中に生きています。故郷の人々や家族、竜宮島で亡くした人々が、彼女に馴染み深い聖書の伝承の姿を取って彼女を導いている。彼女は自分の故郷や周りの人々を心から愛していたんでしょう。そして愛したものが失われてもそれをずっと覚えている。それこそが彼女の強さであり、底抜けの優しさです。
そういえばドラマCDではカノンと剣司の心が似ていると言われていましたね。最初はどの辺が?と思っていたんですが、「自分の居場所を大切にする」という点では確かに似ています。
剣司は家族や友達がいる平和な日常を自分の居場所として定めています。それは珊瑚礁の海の形を取って現れ、そこを荒らされることを酷く嫌がっていました。カノンの心象風景の船は最初ボロボロでしたが、竜宮島に馴染むにつれて綺麗で立派な船に変わります。小説によると船の中からは賑やかな声すら聞こえるようです。カノンの船は、剣司の珊瑚礁と同じく彼女を取り巻く環境の表れなんですよね。自分の居場所を守ろうとする気持ちが強いところが二人の共通点なんでしょう。

竜宮島の人間になったカノンの心の中心にいるのは一騎の存在です。彼女に「ここにいる」ことを思い出させた人間であり命の恩人でもあるので、そりゃ特別にもなりますよね。おまけに奴は無差別攻略王。カノンは淡い恋心を抱いていました。
カノン、聡い子なので真矢の気持ちに気付いた上で身を引いてるのが切ないですよね………真矢のことも大好きですし、自分が一騎にできることがあまりないということを理解してしまっているのがつらい。一生懸命ファフナーに乗るなって言っても聞かないしな一騎。カノンはいっぺん一騎を殴っても許されると思います。
HAEの小説では一騎に振り回されまくっていましたね。ドヤるカノンとか照れるカノンとか思わぬ反撃食らって撃沈するカノンとか死ぬほど可愛くて冲方先生に足向けて寝れないんですけど、それにしても一騎!!!!!!!お前!!!!!!!!この野郎!!!!!!!!という気持ちでいっぱいです。タラシ台詞に次ぐタラシ台詞。「首輪でもつけてやろう」「それはいいな、今度頼む」って会話なんなんだよ。「それはいいな」ではないが???????何なのお前?????????あまりにもむごいタラシっぷりに草も生えない。
剣司に「あんまりカノンをいじめてやるなよ」って言われてるのは笑いました。本当にカノンは一騎を殴ってもいいと思う。というか殴らせてくれカノンの代わりに。

EXODUSのカノンは、新たに発生したSDPとして未来予知の能力を得ます。カノンのSDPあまりにも重すぎでは?と絶望したんですが、今考えると意志の強いカノンだからこそ乗り越えられる能力だったのかもしれません。
滅亡の未来の中で戦い続けたカノンが見たのは、カノンと一騎だけが生き残る未来でした。みんなの分まで一騎と二人きりで生きる。カノンが心のどこかで望んでいた未来です。でもその未来をカノンは受け入れませんでした。彼女が何よりも守りたかったのは自分の恋心ではなく、みんなが生きる竜宮島だったから。
夏祭りの日、一騎に貰った飴を嬉しそうに頬張るカノン。ショコラを優しく抱きしめるカノン。喫茶楽園で花火を見つめるカノン。何もかもに満足した彼女の微笑みが綺麗でベチョベチョに泣きました。「愛すること」が流れる中、花火を背景に一騎の幻と向かい合うシーンがあまりにも綺麗で、涙を流す彼女がただただ綺麗で。
彼女が最期に残したのは容子さんへの「ありがとう」、仲間への「さよなら」、そして誰にも届かない「好きだよ、一騎」という告白だけでした。カノン…………………君は…………君の生き様は綺麗だ………………………(号泣)
カノンは一騎に会うことなく逝ってしまいましたが、その命は島のコアに還っていきました。彼女の居場所であった竜宮島に祝福されたんですね。よかったね、カノン…………(嗚咽)
彼女の命は竜宮島に、一騎たちの心の中に残り続けるんでしょう。そして彼女が残した新しい機体は、竜宮島を終わらない未来へ導いていきます。ヤコブの火のように。


アニメ一期のメインキャラ、本当にみんな大好きなんですよね。アニメ見直したり小説読んだりドラマCD聞いたりしてみて、改めてそれぞれの魅力を再発見できた気がします。
本当は乙姫ちゃんとか来栖操とか後輩たちとか他にも語りたいキャラがまだまだいるんですが、文字数がえらいことになってしまったので気が向いたら別の記事にします。
長々お付き合いいただきありがとうございました!!ではBEYOND行ってきます!!!

 


p.s. これ書いてたら辛抱たまらなくなってBEYONDの香水全種ポチってしまった

 

『蒼穹のファフナー』とかいうヤバいアニメを視てしまった

「絶対に好きだから視てください」と数年前からフォロワーさんにゴリゴリ勧められていたアニメ、蒼穹のファフナー。結構ヘビーな作品だと聞いてなんとなく先送りにしていたら無料配信が始まったとのことで。今しかねぇ!と視始めてみたらあまりにも面白くて度肝を抜かれました。
滅茶苦茶綺麗な空や海や街の描写、徹底的に掘り下げられたキャラクター、圧倒的質量でオタクを叩き落とすストーリー。なんだあれ。怖い。悲鳴を上げたりアホほど泣いたりしながらなんとかEXODUSまで完走しました。今は燃え尽きて塵になっております。
世界観やストーリーが難解でしたが、フォロワーさんの副音声解説のおかげで一期もEXODUSも乗り越えられました………本当にありがとうございます。
感情の整理とありがとうの気持ちを込めて、キャラクター中心に感想を書こうと思います。最初の方はネタバレなしでこの作品のここが良かったなってポイントを書きますので、まだファフナーを視てなくて「ちょっと気になるな~」って方がいたら参考にしていただけたら幸いです。

 

 

キャラクターの掘り下げ方


一期からEXODUSまで徹底してこれがすごい。一期前半はキャラクターの内面が見えづらいところはあるんですが、少年少女の揺れ動く繊細な心や、戦争当事者であり子供を守る存在である大人たちの葛藤が緻密に描かれています。
蒼穹のファフナー』は宇宙から攻めてきたエイリアンをロボット(あれをロボットと呼んでいいのかわかりませんが)で撃退する、というお話です。私ロボットアニメってこう、子供が戦わなくちゃいけなくて大人が容赦ないイメージがあったんですよね。子供が甘いこと言うと「今はそれどころじゃねぇ!戦え!」みたいな。でもファフナーの味方サイドの大人は徹底して子供を大事にするんですよ。訳あって大人は機体に乗れないので、「本当は平和の中にいなければいけない存在を戦わせている責任」をみんな背負っている。だから子供が傷つけば苦しむし、率先して子供の盾になろうとする。極限状態の戦争を経験してるのにあまりにもまともなんです。
メインキャラクターの子供たち以外にも、大人たちのそういう複雑な心情の描写には脱帽しました。本当にすごい。サブキャラクターにも感情移入してしまう。
そんな大人たちに見守られているので、子供たちは戦いの中でも心は子供のままでいさせてもらえるんですよね。みんなでお祭りを楽しんだり、恋に悩んだり、子供として親に甘えたり。彼らは仲間である以前に「友達」として互いを大事にしています。もちろん戦いの最前線にいることには変わりないので、かえってそれに苦しむことにもなりますが。
子供の心を抱えたまま、戦いの中を生き抜いていかなければならない彼らの葛藤こそが一期の醍醐味でしょう。劇場版や第二期のEXODUSでは前線に立つ子供たちの世代交代もあり、先輩になった彼らの成長にじんわりきました。

「生と死」、「対話」というテーマ

Yahoo!ニュースで「胃薬が必要なアニメ」と紹介されている通り、この作品は結構な人が死にます。メインキャラクターもモブキャラクターも関係ありません。誰だろうと死ぬときは死にます。
正直そういうの無理、という人にはあまりお勧めできない作品なんですが、このアニメは「ただ人がたくさん死ぬアニメ」ではありませんでした。そのキャラクターが何を思って生きたのか、何のために戦って死んだのかを余すことなく見せてくれます。
悲壮感を演出するためだけの死ではない。英雄として死者を祀り上げることもしない。メインキャラクターもモブキャラクターも大人も子供も、「誰かにとって大切な人、生きていてほしかった人」なんです。それをキャラクターが死ぬ前も、死んでしまった後も徹底して描いています。正直私がファフナーで一番好感度が高いポイントはここですね。
生まれてくる命を尊び、死を嘆く。当たり前のことなんですが、カットせず細部まで描かれたそれは良くも悪くも心に響きます。根底にあるテーマの一つが「生と死」なんだろうな、と感じています。
そしてもう一つのテーマが「対話」です。この作品はシリーズを通して「対話をする意味」を描きます。少年少女の拗れてしまった関係から終わりなき戦いの行末まで、全てを通して「対話」が鍵になります。ロボットアニメにしてはあまりにもテーマが有機的というか、人間の感情に寄っているところが面白いんですよね。
このテーマは大変アツい展開に繋がります。

なんかもう私が語るより視てもらった方が早いので、以上を読んでくださってまだファフナーを視ていない方は今すぐYouTubeを開いて『蒼穹のファフナー』を視てください。無料配信は6月30日までだ!!週末頑張れば一期くらいならいける!!!もし見逃してしまっても、7月からBS11で一期の再放送があるぞ!!よろしくな!!!


ここからはキャラクターの感想です。キャラクターの内面とかお互いの関係性についてがメインになります。
ファフナー、登場人物がみんな魅力的な上にちゃんと一人一人にスポットが当たるんですよね。キャラクター同士の関わり合いも複雑なので、群像劇として本当に面白い作品だなと思います。
ちなみに私は一期、ROL、HAE、EXODUSしか履修していないので、BEYOND、ドラマCD、小説の内容は感想に含まれません。

 

真壁一騎


主人公。仲間を大切に思い、敵との対話を諦めないという主人公らしさを持っていますが、お話を追ってるうちにこいつ……テンプレ主人公じゃないな……!?と気づきました。彼、考えれば考えるほど底が知れなくて恐ろしくなります。

一騎の底抜けの優しさや相手を理解しようとする姿勢は朱音さん譲りなんでしょうね。人当たりも良いので色んな人に好かれています。ていうか人たらし。その人が一番欲しい言葉をピンポイントで投げる無自覚攻略王です。無差別に撃ち落とすんじゃない。
一期の頃はなんというか、優しいようでいてそれドッヂボールじゃない?みたいな対話の仕方をしてましたが(例:カノン説得)、年を経てボールを投げっぱなしにせずちゃんと対話できるようになりました。成長したね一騎。
彼は一期の頃から年の割に落ち着いた態度が多いように感じます。現状が理解できずに取り乱すとか、戦いへの強い恐怖を感じるとか、そういうことが全くないんですよね。もちろん多少は少年らしい未熟さを持っています。戦いの中で自分の意志が定まらず惑ったり、勢いで行動することもありました。
しかし一度決めたことへの迷いのなさ、痛みや苦しみをものともせず自分の命をドンドコ削る意志の強さはどこか人間離れしています。そもそも人間らしい精神的な弱さとも無縁です。弱さからの成長という点なら剣司の方が主人公らしいくらいです。人間味が薄いんですよ、真壁一騎という男。
そんな一騎が迷ったり、取り乱したり、怒り狂ったりする唯一の存在が皆城総士。もう本当にすごい。総士が関わると途端にスイッチ入る。いっそ清々しいまでの総士センサー。一騎の総士への執着はあの日の事故から始まったんでしょうね。ついでにあの人間味のなさもここから来ている気がします。

幼い頃の一騎については詳しい描写がないためわかりませんが、彼はきっと今と変わらず友達を大事にする子だったんだと思います。輪の中で中心にいるようなタイプだったかもしれませんね。
ところがあの日、一騎は総士を傷付けてしまった。総士には消えない傷跡と失明した片目が残り、一騎は彼に謝れないまま自分がしたことをなかったことにされました。根が優しくて誠実な一騎は、大事な友達を傷つけた自分を受け入れられなかった。仲の良い友達が目の前で血塗れになって呻いていて、しかもどうやら自分がやったらしいなんてそりゃトラウマもんです。直前の記憶がないので混乱もしていたんでしょう。彼は自分がやったと言い出せずに逃げ出してしまいました。壮絶な自己否定の始まりです。
一騎は何故自分が総士を傷つけたのかもわからず、総士も何も言わない(言えない)から一人で罪悪感を抱え続ける。どれほど後悔しても総士の視力は戻ってこないし、総士は怒っていて自分を許さないつもりだと思っているので(実は許されるどころか感謝されてるんですが)、自分を責め続ける。それまで築いてきた友情に比例して罪悪感が膨らんでいく。雁字搦めですね。
一騎は「ずっと居なくなりたかった。俺なんか居なくなればいいって」と一期で言いました。自己嫌悪が完全に希死念慮に至っています。そんな感情を長年抱え続けた結果、人間として当たり前に持っている死への恐怖が抜け落ちてしまったんでしょうね。妙に人間ができているのに虚ろに感じたのはそれ故なのかもしれません。「消えてしまいたい」と思っているので、戦いで傷つくのも死ぬのも怖くありません。「総士のために戦って死ねば許される」とまで思っていそうですね、この頃の一騎。

でも、一騎の中にはまだ「ここにいたい」という思いが残っていました。本当は自分がどこにもいないのが怖かった。総士の心を理解したい、その上で総士と一緒に戦いたいと願っていた。だから一騎は総士と対話する道を選びました。自己否定の原因が総士なのに、そこから抜け出すきっかけも結局は総士なんですね。
あの日本当にあったこと。総士はとっくに一騎を許していて、一騎の与えた「痛み」と傷こそが総士の救いだったこと。それを知った時、一騎にとって総士の存在が罪悪感の対象(自己否定の根源)から自分を肯定してくれる存在(自己肯定の根源)に変わったんだと思います。
「お前のおかげで僕が存在する」なんて、それはもう絶対的な存在の肯定じゃないですか。罪悪感の元だったあの行為が「皆城総士」という存在を確立したんですよ。それまでの自己否定なんて消し飛ぶくらいの強烈な肯定です。
総士の苦しみの一端を理解した一騎は「いなくなりたい」という思いを捨て、「自分の意志で総士と一緒に戦うこと」をここにいる理由として定義しました。総士はここで一騎の存在意義になったんでしょう。
ていうか皆城総士真壁一騎の人格形成にほとんど関与してるっていうか、ほぼ皆城総士を中心にして真壁一騎という人格が形作られてない……??なんなの………???

一騎は一期の途中でマーク・ザインを手に入れます。フェストゥムの同化能力を自在に使う恐ろしい機体ですが、フェストゥムを理解しようとした朱音さんの息子である一騎が乗るに相応しい機体ですよね。
EXODUSからが顕著ですが、ザインはその力を使って地獄の中で苦しむ人々を救う「救世主」の象徴になりました。一騎の変性意識も「自分の力で多くの人を救いたい」といったものになるようです。まんまメサイアです。
一騎のこの心、総士との関係から芽生えたんじゃないかなと思っています。元々人類軍だろうと誰だろうと助けようとする人の好さはありましたが、総士との和解でそれがさらに強化されたというか。総士を救ったことで自分の存在を肯定した一騎にとって、誰かを救うことが存在意義になっていったんでしょう。つまりは皆城総士真壁一騎を救世主にしたということになりますね。いや、皆城総士、本当に何………?
皆城総士真壁一騎を定義するものであり、アイデンティティであり、切っても切り離せない半身なんでしょう。もう運命という言葉すら軽く聞こえるほど深い繋がりです。
命の循環の中で巡る総士と、命の循環を超えた一騎。一騎が老いる体なのか、そもそも寿命があるのかもわかりませんが、それでも二人はこれから何度でも出会うんでしょうね。時には形を変えながら、何度でも。

一騎が総士の他に特別視している存在が遠見真矢です。一騎は彼女に対して、総士への感情とは真逆のベクトルの想いを抱いているんじゃないかなと思います。地獄の底だろうと総士がいる場所が一騎の行くべき場所ですが、一騎が総士と一緒に帰る場所は真矢の隣なんでしょう。
真矢は一騎に恋愛感情を抱いていますが、今のところ一騎にそういう感情はなさそう。ただ確実に他の幼馴染とは一線を画したところに真矢の存在を置いてるっぽいですね。一騎にとって真矢は「日常の象徴」「自分を竜宮島に繋ぎとめてくれる存在」のようです。
非日常の中で変化していく自分に不安を感じた一騎に、真矢は「一騎くんがどんなに変わっても、私、一騎くんのこと忘れないよ」と言いました。この竜宮島で一緒に育った、ただの少年だった一騎のことを覚えていると。この言葉があったから一騎は安心してファフナーに乗れるんでしょうね。どんなに自分が変わってしまっても、真矢が自分を覚えていてくれるなら帰ってこれる。一期終盤では真矢がみんなの腕に竜宮島の座標を書いています。いつだってみんなを故郷に結び付けるのは真矢なんです。
一騎は真矢は優しい日常の中にいるべきだと考えているので、彼女をなるべく安全な所に留めようとします。でも自分は戦うし無理して命を削る。それを真矢が望んでいないことも、それで傷ついていることも多分わかっててやっています。お前はそろそろ真矢ちゃんにいっぺん殴られた方がいいと思う。
この二人はお互いのことを心の支えにしていますが、世界が平和にならない限りお互いの心を救うことはできないんじゃないかと思っています。「真矢には安らかな日常の中にいてほしい」という願いも「戦いより一騎の命を大事にしてほしい」という願いも、お互いに叶えてあげられないからです。きっと戦いの中で寄り添い、護ることしかできないんでしょうね。切ない関係です。

真壁一騎はまだまだわからないことが多いんですよね。本当に感情の底が知れなくて怖い。彼についてはドラマCDや小説やBEYONDを見た後、改めて感想を書き直すことになりそうです。見当違いなことを書いてたら笑ってください。


皆城総士


長髪美少女顔なのに普通に声低いし中身はゴリラメンタルだった。いやほんと最初の印象から大分変わりましたね。思っていたより愉快で可愛い男でした。ピーチ姫になったりフェストゥムになったり赤ちゃんになったりと忙しない男です。まぁ赤ちゃんは別人格っぽいですが……。

勤勉で真面目、神経質で細かく合理主義な典型的理系脳野郎です。根は優しいので周りの人のことはとても大切にしますが、本人の不器用レベルがカンストしているのと立場上大っぴらにできないのとで場合によっては1ミリも通じません。不憫。とはいえ一騎に比べたら遥かにわかりやすい男です。
総士は結果的に家族を全員失うことになるのが切ないですね。その辛さや寂しさを隠してしまえるのが彼の悲しいところです。きっと幼馴染たちが心の支えになっていたんでしょうし、だからこそ誤解されてでもみんなの命を守ろうと冷たく振舞っていたんでしょう。理解してもらえてよかったね総士。何もない部屋にみんなと撮った写真だけ置いてあるとこ好きだよ総士

彼のことは一騎の存在なくして語れません。一騎は総士が「皆城総士」になるきっかけの存在であり、総士アイデンティティの一部です。
「自分がどこにもいないなら一騎と一つになりたい」と願ってしまうくらい、幼い総士の中で一騎の存在は大きかったようです。自己が曖昧な総士に寄り添ってくれた子だったんでしょう。
その上、一騎を同化しようとした(フェストゥムになりかけた)自分を彼は拒否してくれた。総士にとっては「お前は俺じゃない、お前はここにいるぞ」と言われたようなもんです。皆城総士」という自我を作ってくれた存在といっても過言ではありません。そりゃあ絶大な信頼を寄せるし依存もするというものです。
ただ一騎がとてつもない罪悪感に苛まれてるのを哀れに思いつつ喜ぶのはお前、気持ちはわからなくもないがそういうところだぞ………と思ってしまいますね。もしかして一騎にずっと自分のことで悩んでてほしくてあえて話さなかったの?割とありえそうで怖い。

一期開始時点で普通に一騎のこと大好きなんですよね彼。「そんなに一騎君の気持ちに入り込みたいの?」「それはいけないことかい」という会話にスペキャ顔していた頃が懐かしいです。なんだよあの会話。未だにちょっとよくわかんないよ。
島に帰ってきてから一騎を始め幼馴染の記憶ロックが外れたので、総士には「ようやく同じものを見られる」という安心があったんだと思います。一騎がファフナーに乗るようになってからはクロッシングで考えてることもわかるし、嬉しかったんでしょう。そんなこんなで調子に乗ってたらダイナミック家出かまされてショックを受ける総士。可哀そうだけど対話を怠ってきたので自業自得ですね。許してるなら許してるって言ったれや。この頃の総士の、頭が良い故の不器用さというか、無自覚な一騎への甘え、今思い返すと可愛いです。
彼は誰かに自分の感情を伝えるだとか、お互いの気持ちを理解し合う術を学ぶ機会がないまま育ってしまったのかなと思います。もちろん公蔵さんは総士を家族として大切にしていたんでしょうし、総士もお父さんのことを大切に思っていました。でも公蔵さんは島の代表かつ島のコアを護る者なので、総士には自分がいずれ背負うものを説かなければいけなかったんでしょうね。それはもう一人の家族である乙姫を護ることでもありましたから。
幼い頃から役目を意識して生きてきた総士は、下手に有能だったのもあってか酷く不器用な少年になってしまいました。傍にいたのが絶大な信頼を寄せる一騎や、言葉を尽くさずとも気持ちを察してくれる真矢だったから、それに甘えていたのもあるかもしれません。だから対話じゃないと気持ちが伝わらないことがある、ということが指摘されるまでわからなかったんでしょう。
自分を理解しようとしてくれる一騎や、時々叱りながら気持ちを伝える大切さを説いてくれる真矢がいたからこそ、総士は周りの世界と繋がれたんでしょうね。乙姫もきっと不器用な兄のことが心配で色々と気を回してくれたんだろうな。良い妹を持ってよかったね総士

総士ファフナー、マーク・ニヒトは存在を無に還す「否定」の名をつけられた機体です。総士は過去に竜宮島を襲ったこの機体のことを憎んでましたが、ある意味総士でなければ乗れない機体ですよね。
総士は一騎によって同化を「否定」されることで自分の存在を確立した人間です。一騎に与えられた痛みと目の傷が「皆城総士」を定義しています。そんな総士だからこそ、一期で攫われた時フェストゥムに教えたのは「痛み」でした。無に還る時の痛み、消失への恐怖、それこそが今生きている(存在している)証です。
エメリーにも「フェストゥムに痛みを与え続ける存在」と言われていますね。一期ラストでフェストゥムに「痛み」を教えた総士は、朱音さんと同じように彼らに大きな傷を残したのかもしれません。ニヒトを通じて総士フェストゥムに与える「痛み」は、今後の重要な鍵になりそうですね。

一騎に並び、総士が並々ならぬ感情を向ける相手が遠見真矢です。私一期視てた時、フォロワーさんに教えてもらうまで真矢ちゃんのこと好きって気づかなかったんですよね。わかりづらすぎるぞ総士
一騎は総士の一部にも等しい存在なので別次元で特別ですが、一騎と同じく総士にとっても真矢は「自分を日常に繋ぎとめてくれる存在」として特別なんでしょう。優しい日常の象徴である彼女の傍にいると安心したのかもしれません。
総士「遠見は僕らにとっての地平線だ」という言葉、二人には訳わからんと一蹴されてしまいましたが的を得ていると思います。空と地の堺。戦争と平和フェストゥムと人間。戦いに溺れそうになっても、真矢が日常に引き戻してくれる。自分が何者かわからなくなっても、竜宮島で一緒に育った真矢が自分たちのことを覚えていてくれる。真矢はそういう存在なんだと思います。それ皆城言語的には愛の告白だったりしない?
彼なりに真矢を戦闘から遠ざけようとしたりフォローしてみたりしてますが、真矢は全く彼の気持ちに気付かない上に何より一騎を心配しているので取り合ってもらえません。まぁ総士の伝え方が下手くそだしな。さらに一期では一騎への接し方を責められる始末。「いつも泣かれるのは僕だ」というぼやきが切ないです。二人でいる時、いつも沈んだ顔か泣いてる顔しか見てないもんね………。
真矢的に総士は完全に恋愛対象外なので、EXODUSでは嬉しくないラッキースケベに見舞われています。本当に不憫。涙拭けよ総士………。
きっと総士総士で、真矢にわかってもらえなくてもいいと思ってるんでしょうね。単に不器用だからアタックできないのもあるかもしれませんが、真矢の隣に居るべきなのは自分じゃないとわかっているんだと思います。EXODUSで新国連から飛行機で帰る時の座り方なんか二人の距離感そのままです。総士は真矢の隣にはいない。いつもちょっと後ろで見守ってるんです。そして真矢が自分を見てない時だけすごく優しい顔をする。つくづく不器用な男ですね。
総士にとって真矢への想いは、自分が大切に抱えていればそれでいいものなのかもしれません。呆れと諦めと寂しさと愛しさが滲んだ「わかっちゃいないさ」という囁きで私は死にました。本当にあれは喜安さんに頭が上がらない名演技です。
総士は消える時も真矢への言葉を遺しませんでした。想いを語らず抱えて逝った総士、切ないけど好きです。
ところで小説とかに真矢に惚れたきっかけ書かれてないんでしょうか。滅茶苦茶気になる。

EXODUS最終話では、「総士」という名の子供の手を引く一騎が描かれました。私この子供は二代目であって総士ではない(乙姫と織姫みたいなもの)と思ってるんですが、よりによって「総士」と名付けたのか………一騎………そりゃ確かに総士の生まれ変わりだろうけどさ…………正直嫌な予感しかしていません。
ここからは紛らわしいので一期~EXODUSの総士を「総士」、それ以降の二代目総士を「こそうし」とします。語る内容はほぼ妄想です。
自分と同じ容姿、同じ声、同じ名前の存在がいるのって、自分のアイデンティティが揺らぐと思うんですよ。もしそんな存在が目の前にいるなら「お前は僕じゃない」と否定できます。自分がここにいるんだから、相手は偽物のはずだと。ところが「総士」は既にいません。以前いた人間の名前で呼ばれ、残された写真と自分の顔は年々似ていき、周りの人間が自分を見る目に懐かしさが滲んでいる。自己が確立される前からこそうしがそんな環境に置かれたらどうなるか。簡単にアイデンティティの崩壊を引き起こすんじゃないでしょうか。
自分が「自分」だと思っていた人間は存在しないのではないか?この自我こそが偽物で、前の「総士」こそが本物だったんじゃないか?自分は総士のために用意された器なんじゃないか?そんな思考に陥る可能性もあります。最初の総士の幼少期とは別の形の「僕はどこにもいない」という思考ですね。てかこれ人類軍のパペットじゃねーか。アッだからCMでプロメテウスたちに攫われかけてるの!?いやわからんけど!
もちろん竜宮島の人たちは馬鹿ではないので、総士とこそうしを切り離して接してくれるでしょう。総士のものはこそうしの目につかないように管理しているかもしれません。でも一騎は、一騎だけは、果たしてそれができるんでしょうか?
彼は他でもない、自分の半身である総士と「互いの祝福の彼方で会おう」という約束を交わしてしまってるんですよ。そんな言葉を残された一騎が、あの子を別の存在として完全に切り分けられるんでしょうか。あの約束があったから「総士」という名前を付けたんじゃないのか一騎。いや誰が付けたとか聞いてないけどお前だろ絶対。竜宮島は「名前は祈りにも呪いにもなる」ということを義務教育で教えた方がいいと思います。
そもそもこそうしがどんな生活を送るのかも今はまだ知らないんですが、なんかこう、大きな歪みを抱えたまま成長しそうで怖いです。CM見た感じ不安定っぽいし。君は君らしく元気に育ってくれ~~~~~~~~!


遠見真矢

みんな大好き真矢ちゃん。私の推し。いかにもヒロインぽい可愛らしい子だな~~って思っていた時期が私にもありました。ファフナーの戦闘がかっこよすぎて「ゴルゴじゃねーかwwww」とか言っていたら本当にゴルゴになってしまった。そういう……そういう意味で言ったんじゃないんだ…………なぁ………真矢ちゃん……………。
シリーズ通して精神面の変化が著しいキャラクターですね。彼女の変化が良いことだったのかそうでなかったのか、未だに自分の中で答えが出ていません。
冒頭で感情が限界を迎えているあたりでお察しの方もいるかと思いますが、彼女の項はクソ長くなります。EXODUSで負った傷が深いので許してほしい。

基本的に友達思いで優しい女の子です。明るいけど押しつけがましい明るさではありません。本当は結構落ち着いた子なんだと思います。人の心の機微に聡いので、そっと寄り添うような優しさで人に接することができます。だから不自由故に複雑な心を抱えた翔子とも仲良くなれたんでしょうね。
人と人との橋渡し役をすることが多い子だなと感じます。一期では総士に対話の必要性を説いていました。話さなくても相手の感情を見抜ける能力を持っている真矢が「対話をしろ」と言うのが面白いですね。聡いからこそ、言葉を交わさないコミュニケーションでは足りないことをちゃんと理解しているんだと思います。
彼女は他人に説くように、自分も相互理解のために言葉を尽くすことを惜しみません。一期からEXODUSまでその姿勢は一貫しています。彼女が一騎や総士に言葉を尽くさなければ、総士が一騎と本当の意味でわかり合うことはなかったかもしれません。一騎がカノンを説得することもできなかったかもしれない。乙姫と一緒にさりげなくこのお話の命運を左右してますね。
彼女は人と人との橋渡しはバンバンしますが、自分が誰かと深く繋がろうとすることは意外にもありません。もちろん同期組とは仲が良いですし、カノンに悩み相談をしたりもしてますが、こう、自分のことわかって!みたいなアピールがないというか。仲良くなった人たちを眺めてニコニコしてるイメージです。幼馴染の集合写真に真矢だけ映っていないのとか象徴的ですね。真矢は写真を撮る側で、その中にいないんです。一期の真矢がこの写真を見つめて零した「私はどこにいればいいんだろう」というセリフ、故郷の平和から遠ざかっていくEXODUSの真矢に繋がってるなと今気づいて死にました。みんなの傍にいればいいんだよォ!!!!!!!

真矢は平和な日常や、自分の周りの人間をすごく大事にしています。みんなが仲良くしてる時が一番嬉しそうですね。千鶴さんや弓子さんは優しく、普段からコミュニケーションもしっかりとれているようなので、家族仲が父を除いて良好だったことが影響しているかもしれません。ミツヒロはなかなかのモラハラクソ親父っぷりでしたが、昔は優しい時もあったようです。そういう経験や記憶が今の真矢のベースにあるんでしょう。
そんな真矢なので、上で散々書いた通り一騎と総士にとっては「日常の象徴」です。二人が人間として大事なものを忘れないよう、時には言い聞かせ時には引っ張り戻しています。あの二人は物理的にほぼ人間をやめてしまっているので、真矢がちゃんと引っ掴んで留めていないと人間でいられなさそうですね。
一騎と総士はお互いがお互いの存在意義でありアイデンティティであり半身なので、たとえお互いがどんな存在に変わろうと「真壁一騎」と「皆城総士」であればそれでいいんでしょう。だからこの二人が竜宮島で育った「真壁一騎」「皆城総士」という人間として存在するためには、二人のことを覚えていてくれる真矢が必要不可欠なんだと思います。二人にとって帰るべき場所の座標です。

彼女は優しいだけのヒロインではなく、優しさ故に武器をとろうとするヒロインなんですよね。一期で自分だけファフナーに乗れなかった時も、仲間と一緒に戦えないことに孤独感と罪悪感を抱いていました。本当に大事なものは率先して守りたいんだと思います。それ故に「日常の象徴」だったはずの真矢は、どんどん戦いの中へ飛び込んでいくようになります。
真矢の変性意識は驚異的な冷静さ。多分他のキャラもそうですが、変性意識って普段押さえつけている感情が表に出てるんじゃないかと思っています。なのであの真矢の冷静さ、容赦のなさはもともと真矢の中にあった一面なんでしょうね。ミツヒロの血を感じます。
最初はファフナーに乗った時のみ表出していたそれが、EXODUSでは真矢を侵食していきます。真矢は交戦規定アルファを実行しようとした爆撃機を撃ち落としてしまいました。「わかり合えなかった人間を殺す」ということが、真矢の変化の引き金になったようです。

真矢はファフナーの側でしか休まなくなり、弓子さんに貰った銃をいつでも撃てるように持っています。臨戦態勢を解けないんです。というか、自分の意志で「何でも冷静にできる自分」でいようとしています。いや本当にしんどい。一騎や総士を日常に繋ぎとめていた他でもない真矢が、日常に戻れなくなっているんですよ。この真矢を目にした時の一騎と総士の悲しみは計り知れません。
ここで一騎が真矢を思って言った「遠見は竜宮島に帰ってくれ、一人で背負うな」という言葉が、さらに真矢を後戻りできないところまで推し進めてしまったんだと思います。だって彼女は「誰かを護るために武器をとる女の子」ですから。誰かに背負わせるくらいなら自分がやるんです。
だから真矢は一騎を狙った工作員を射殺しました。ファフナーに乗っている時じゃないんです。変性意識下の判断じゃないんですよこれ。自分の意志で、必要とあらば人を殺す覚悟を決めてしまったんです。真矢ちゃん……………。
暉に人殺しを指摘された時、真矢はいつもと変わらない微笑みを浮かべるんですよね。人を殺したのに悲しくならない。涙も出ない。心が麻痺した真矢は、もう後戻りできないところまで来てしまいました。
真矢もそれを自分でわかっていたから、「自分は竜宮島に帰っちゃいけないかもしれない」と思い始めたんでしょう。竜宮島は人同士で殺し合いはしません。平気で人を殺せるようになってしまった自分には、あの平和な島に居場所はないんじゃないか。

でもそんな真矢に一騎は「一緒に帰ろう」と言います。今まで散々真矢の願いを蹴って自分の命を削っていた一騎が、「一緒に生きて竜宮島に帰ろう」と言うんですよ。真矢が一騎にずっと望んでいたことです。
この一騎の言葉が真矢の麻痺した心を日常に戻しました。真矢はそこで初めて一騎が髪を切ったことに気づいて、久しぶりに心の底から笑うんですよね。今まで真矢が一騎を日常に繋ぎとめていたけど、初めて一騎が真矢を日常に引き戻す役割になりました。よかったね、真矢ちゃん…………(嗚咽)

でも真矢の覚悟がガン決まっていることには変わりありません。真矢は新国連に拉致られた後、ダスティンを殺し、フェンリルを起動して交戦規定アルファを撤回するようへスターを脅します。「こうでもしなきゃ話し合えないのが人間でしょ」って言うんですよ彼女。人間は話せばわかり合えると信じていた真矢はもうどこにもいないんです。自分の命も犠牲にできる子になってしまったんです。真矢ちゃん…………(二度目の嗚咽)
さらに真矢は「人を殺した責任」も背負おうとします。真矢はダスティンの仇討に来たビリーに殺されようとしました。「誰かの大切な人を殺した自分は憎しみを受け止めるべきだ」と覚悟していたんです。結局それは溝口さんに阻まれますが、代わりに彼女は果たされることのなかったビリーの怨嗟を背負うことになります。このアニメ、なんでヒロインにばっかり重たすぎるもの背負わせようとするんですか???????
その後の真矢、美羽を抱きしめようとして、自分にビリーの血が付いているのを思い出して止めるんですよね。でも美羽は構わず真矢に抱き着いて「みんなを守ってくれてありがとう」と言います。護るために人を殺し、それでも姉と姪の親友を失った真矢に「ありがとう」って言うんです。美羽に縋りついて泣く真矢が本当に………真矢ちゃん…………………(三度目の嗚咽)
美羽の感謝は「あなたに救われた人はいるんだよ、あなたは竜宮島にいていいんだよ」という許しでした。真矢は決して人を殺した自分を許すことはありませんが、それでも確かに救われたんでしょうね。
BEYONDの真矢がどんな風に変わっているかはわかりませんが、きっとみんなを護るために誰よりも戦場を駆け巡っているんでしょう。それが頼もしくもあり、哀しくもあります。

一騎の項でも触れた通り、真矢は一騎に片想いをしています。クライミング中に落ちそうになったところを助けられたのがきっかけなんでしょうか。一期では親友の翔子が一騎に恋していることを知っているので、自分の気持ちは抑え気味でした。なんだかんだ今も結構控えめですね。健気な女の子です。
真矢の感情は確かに恋であるはずなんですが、彼女、上で書いた通り相手に気持ちを求めるということを全くしないんですよね。自分の方を向いて欲しい、自分を好きになって欲しいという気持ちを全然出さない。状況が状況だし一騎はドンドコ命を削ろうとするので、それどころじゃないと言われてしまえばそれまでなんですが。求めるよりも与えたいタイプなのかな、と思っています。
彼女の愛は傍で相手を支えることなのかもしれません。献身的で、かといって盲目でもない。その人にとって何が一番必要なのかを理解して与えようとする。彼女の生まれ持った天才症候群が影響しているんでしょうね。
彼女はずっと一騎に平和な日常の中にいてほしいと願っていますが、一騎が一騎である限りそれは叶えられない願いなんだと思います。一騎は誰かを救うために自分の命を使うと決めてしまっていますから。もちろん簡単に死ぬつもりはないようですし、EXODUSでは短冊にでっかく「生きる」と書いていましたが、一騎は自分が平和な日常から遠ざかっていくことを惜しみません。真矢がいる安心感が戦いへ後押ししている部分もあるかもしれませんね。何があっても真矢がいれば竜宮島に帰ってこられるから存分に戦える、みたいな。真矢からすればたまったもんじゃありませんが。
一騎は真矢が心安らかに過ごせる竜宮島にいてほしいと思っていますが、彼女にとっての日常って「一騎を始めとした大切な人たちがいる竜宮島」なんですよね。竜宮島で平和な日常が続いていようと、そこに一騎がいなければ意味はないんです。だから真矢は大人しく待ってなんかいないで、一騎の傍で戦おうとします。強いヒロインです。
一期EDテーマの「Separation」ファフナーの曲の中では特に好きで、真矢から一騎に向けた歌っぽいなと思っているんですが、EXODUSの一騎から真矢に向けた歌にもとれる気がしています。変わってしまった相手を悲しく見つめて、せめて傍にいたいと願う歌。二人らしいなと思います。
一騎と真矢には、平和になった世界で穏やかに想い合う関係になってほしい気持ちでいっぱいです。

真矢の総士への気持ちは複雑ですよね。幼馴染として大切に思ってはいるんでしょうが、総士と一騎の不和には昔から思うところがあったんだろうなと感じます。一期で再会した時からずっと、総士と二人きりの時の真矢は笑いません。
真矢は持ち前の洞察力で、一騎が総士に後ろめたさを感じていること、そして激しい自己嫌悪に陥っていることを察していたんだろうなと思います。もしかしたら総士の目に傷をつけたのは一騎だと気づいていたかもしれませんね。総士に当たりが強いのは、彼が一騎のこと大好きなくせに思い悩む一騎に何も伝えようとしなかったから怒っていたんでしょう。好きな男の子の苦悩の原因が目の前にいたらそりゃ怒るわ。おまけに総士、その状況をちょっと喜んでる部分もあるし。お前本当にそういうところだぞ。
総士が一騎と和解した後は若干態度が軟化しましたが、それでも穏やかな交流はあまりありません。というか初期の総士が真矢に冷たい態度を取ってたので、そもそも総士からは嫌われてると思ってるんですよね彼女。あの天才症候群を持った真矢に1ミリも気持ちが伝わってないのはある意味すごいぞ総士
総士は一騎の存在意義でありアイデンティティであり半身なので、この世界にいる限り一騎を戦いに駆り立てる存在です。総士の諸々の事情を理解できてはいても、一騎を平和から遠ざける彼には複雑な思いがあるんでしょう。同時に、一騎のことを一番に考える者同士のシンパシーみたいなものもありそう。
でも総士が一騎を想ってすることと真矢が一騎を想ってすることは全く違います。総士は一騎に命を削ってほしいとは思っていませんが、一騎が本気で決めた選択なら総士はそれを受け入れます。最終的に自分が隣にいればそれでいいと思っているところもあります。それに対して真矢は一騎が生きていること、平和な日常に戻ることを何より望んでいます。一騎のことを想っているのは同じなのに永遠にわかり合えない。平行線ですね。
真矢は、一騎と総士なりに真矢のことを大切に思っているのはわかっているんでしょう(総士の恋心は別ですが)。でも二人が真矢だけ平和の中に置いていこうとするのは気に食わない。真矢は二人の間だけで世界が完結して、いずれどこかに行ってしまいそうだと感じているのかもしれません。だから二人を日常に繋ぎとめようとする。そんな真矢だから、二人は真矢の傍が心地いいんだと思います。
BEYONDの真矢とこそうしはどんな関係を築くんでしょうね。もしこそうしが真矢に淡い憧れを抱いていたりなんかしたら私は目を焼かれて死にます。ていうかもう一騎と真矢がこそうしのパパとママになれば万事解決じゃない??ダメ???ダメだよな………知ってる……………。

本当は他の幼馴染組とか第二世代第三世代のことも書きたかったんですけど、三人書いただけで文字数がえらいことになったので次回に回します。この三人、密度がとんでもないな?
長々お付き合いいただきありがとうございました!!EXODUSの感想も今度ちゃんとまとめたいな~~~~!!!

『ウーユリーフの処方箋』は、虚構への賛歌だった

先日、リリース直後からプレイしていた謎解き脱出ゲーム『ウーユリーフの処方箋』をクリアしました。可愛らしいPVと共に「新作は乙女ゲーです♡」と発表しておきながら、蓋を開けてみたらヒロイン(クリーチャー)から逃げる脱出ゲームだったアレです。どんな詐欺だよ。

初っ端からのホラー、個性的なキャラクター、メタにメタを重ねたセリフ、伏線や暗喩をチラ見せしていくシナリオ、感情移入し切ったところで奈落に落とす展開。本当に容赦がなかった。始終情緒をメタメタにされたし気が付いたら課金していた。こらえ性のないオタクなので、金に物を言わせて爆速で駆け抜けた一ヶ月でした。ついでに息を吸うように特別ストーリーも買ってしまった。後悔はないです、ありがとうSEEC。

Twitterのネタバレタグを見ていると、このゲームのラストを喜んでいる人も悲しんでいる人もいました。当然だと思います。あのストーリーは確実に人を選ぶし、優しいだけの物語じゃない。でも、個人的に私は最高に綺麗なエンディングだと感じました。いっそ清々しくすらある。特別ストーリーまで読み終えた今、滅茶苦茶怖いジェットコースターに乗って帰ってきたようなすっきりした心地に浸っています。
賢者タイムが終わったので、頭の中の整理も兼ねて所感をまとめます。本編フルコンプ+特別ストーリー+特別ストーリー暗号解読済の人間が書いているので、まだ全て見ていない人はネタバレ注意。

合わせ鏡の世界

マツリが大学に通う「現実世界」とウーユリーフの「ゲームの中の世界」、あとヒロインがいた(キリオが行ったことのある)「現実世界」。このゲーム、これでもかと序盤から世界の境界線を強調されるんですよね。そしてトレーラーハウスに集まった彼らは全員「ゲームの世界」から抜け出したいと思っている。
『ウーユリーフの処方箋』は、ゲームの世界に引きこもり、ゲームの世界を現実だと思い込み始めた円果を連れ出すことが目的。「脱出」が前提として設定されてたのは、「ゲームの世界から現実に帰る」という目的をマツリ(=円果)に刷り込むためだったんだと思います。円果のトラウマ治療が目的にしては穏便でない内容だったのも、危険な存在から逃げることで生存本能や「帰りたい」という欲求に訴えかけるためだったのかもしれない。

本編中盤まで読んで、マツリの言う「現実世界」が虚構でラスト・レジェンドこそが現実だということや、マツリ含めイケメンたちは全員ラスト・レジェンドの人物を基にしたNPC(またはアバター)だということは検討が付いてました(名前の逆再生から)。だから7章ではそれほど衝撃を受けずに済んでいたというのにあの特別ストーリーですよ。最後の最後に「私たちがプレイしているゲームはラスト・レジェンドの彼らが企画したアプリで、映画の予告ですよ」と来たもんだ。心底「やられた」と思った。

このゲーム、最後までプレイヤーをただの傍観者でいさせてくれないんですよね。簡単に世界の境界線を飛び越えて、画面の向こうの私たちすらゲームの一部にしてしまう。読めば読むほど現実と虚構の境界線が曖昧になる。箱庭を眺めているつもりでいたら合わせ鏡の中にいた、みたいな気分でした。悔しい。

あなたの癒しは僕らの痛み

作中で「消費されるもの」「消費する人」として相対関係になっていたのが「キャラクターとプレイヤー」、「芸能人とファン」です。最近流行りのアプリゲーに言及した時は評価が的確すぎて笑ってしまった。自虐の切れ味がすごいぞSEECさん。
確かに乙女ゲーや育成ゲー(いわゆるガチャゲー)のキャラクターも芸能人も、大衆に選ばれたり選ばれなかったり、愛でられたり捨てられたりしながら消費されるものです。どれほどプレイヤーやファンが博愛主義でも、又は特定のキャラクターや芸能人を深く愛していても、彼らが一つのコンテンツであることに変わりはないんですよね。彼らの姿や行動は「それを見て楽しむ人のために用意されたもの」だから。二次元の存在だろうが生身の人間だろうが同じです。誰かに夢や希望や癒しを提供するための虚構なんです。

私はキャラクターはキャラクターとして愛するオタクだし、芸能人のテレビの姿と素の振る舞いのギャップに失望したこともありません。だってゲームや漫画は作り手がいなければ存在しない。アイドルはファンを喜ばせるために派手なパフォーマンスをする。虚構は虚構として受け入れているつもりでした。
でも、キリオが設定をなぞっているだけだと知った時に彼に同情してしまった。ラスト・レジェンドで三筒が細工した出来レースに嫌悪感を抱いた。どちらも受け手に向けて提供されたコンテンツなのに、です。虚構は虚構と割り切っておきながら、わかりやすく演出された虚構に違和感を覚える矛盾を突き付けられてしまった。横っ面を張られたような衝撃でした。

このゲームは「私たちはコンテンツを消費する側の人間なんだぞ」と突き付けてきます。消費されることに怯えるマツリや、選ばれようと足掻くキリオに感情移入して同情する私たちは、彼らのその苦しみを、その物語を娯楽として消費している。だから「みんなグル」なんだと。よりによって、大衆にお手軽に消費されがちなアプリゲームという媒体でそれを言うんですよ。これ以上の皮肉はないです。本当によく通ったなこのシナリオ………。

命の理

円果を現実世界に連れ戻すため、キリオ含めマツリ以外のトレーラーハウス組はみんなセリフや行動が設定されていました。裏では複数人がアドリブの台詞を喋っています。
特別ストーリーのこの部分にショックを受けている人をちらほら見かけました。「結局は円果を救うために用意されたシナリオだったんじゃん」とか「死ぬことや仲間を殺すことが最初から決められていたのがしんどい」とか「自由意志がない張りぼてなんじゃないか」などなど。わ、わかる~~~~~!!!!本編序盤でマツリたちに感情移入しちゃうと切ないんだよな。でも彼らがラスト・レジェンド組のコピーで、円果のため設定のままに行動していたとして、それは彼らの存在の意味を失うようなことなんでしょうか。

本編中でも散々言及されていました。「キリオは所詮NPCですよ」とノゾミが言っていたように、彼らは最初からプログラムされて動いている(今思うと特大ブーメランだな………)。でもンアウフは言います。「ロボットにも心があるよ。みんな同じだよ。みんな生きてるよ」と。結局はこれが答えなんじゃないかと思います。

一度でも創作をしたことがある人はわかると思うんですが、自分でキャラクターを作り出す時設定を考えますよね。まず容姿や性格、言動を決めます。夢や信念も持っているかもしれない。キャラクターは、この時創作者が与えた「個性」に従って行動します。
よく創作をする人から聞いたことありませんか。自分が作ったキャラクターのストーリーを考えている時、作者の都合を無視してそのキャラクターが頭の中で喋り出すとかそういう話。初めは創作者が創り出した存在だとしても、そのキャラクターは創作者の頭の中で自立して生きているんです。
二次創作も同じです。二次創作をする時、自分が触れたキャラクターの性格や言動を反映しますよね。人によって受け取る印象に差はあっても、ファンそれぞれの中にそのキャラクター像ができてるはず。このキャラクターはこういうことは言わないなとか、きっとこういう場面ではこうするだろうなとか。そのキャラクターの核のような部分が自分の中にあるはずです。

虚構に与えられたブレない芯、心こそが「命」なんじゃないでしょうか。もし虚構がただの嘘に成り下がることがあるとしたら、それはきっとキャラクターが自身の信念と矛盾する行動をとった時(いわゆる公式の設定矛盾)や、女性向けにプロデュースされていたアイドルが女性を軽視した発言をする時なんかでしょう。虚構の芯を折ってしまえば、それはただの抜け殻と同じだから。

特別ストーリーの中でも更紗と大木が言い争うシーンがありました。男を抱っこするのをキリオが「気持ち悪い!」と言うのがポリコレ的にアウトだと更紗は言います。確かに正しい言い分ですが、大木はキリオの言動を変えなかった。そこを変えたらキリオの性志向や考え方が変わってしまうからです。キリオの考え方をポリコレを理由に曲げることを許さなかった。(ちゃんとフォローは入れましたが)
これは創り手がキャラクターの「個性」を尊重した結果です。キリオが円果救出のために創り出された虚構だとしても、創り手はキャラクターの意思を曲げずにキリオらしく生きさせようとした。エンディングが決まっていたとしても、それまでにキリオが抱いた想いや葛藤はキリオだけのものだった。

カナタはヒロインに食われる直前、心の底から恐怖していました。ずっと生き残るために必死だったから。マツリは腕を引きちぎった瞬間の激痛を味わった。血が出なくても、切断した断面が綺麗でも、傷つく瞬間の痛みは本物だった。
きっとこれがキャラクターの「命の理」なんだと思います。キリオたちはあの世界で感じるままに生きていた。ゲームの中で彼らがデッドエンドを迎えたとしても、それだけで彼らの物語にはちゃんと意味がありました。

虚構の波に乗れ

事の発端となったラスト・レジェンドは、観客に向けて作られた虚構でした。その虚構に傷つけられた友喜は俳優人生と足を失い、友喜の事故でトラウマを抱えた円果は現実世界から逃げ出した。特別ストーリーでは、ゲームの世界で円果を治療し現実世界へ連れ戻す様を「ドキュメンタリー」として撮影しています。ここ本当にエグいんですよね。特別ストーリー途中までしんどかったな………。

和歌の言う通り、ヒールユー・プロジェクトは友喜と円果の傷に踏み込むものです。あれをドキュメンタリーにするということは、二人の心を土足で踏み荒らすのと同義です。でもこのプロジェクトは「商品」になる。大衆がそれを求めているから。
心に深い傷を抱えた人や重い障害を抱えた人が頑張るドキュメンタリー、たくさんありますよね?ここで「お前ら全員消費者でグルだからな」と言われた我々をぶっ刺してくるわけです。本当に容赦がない。
大衆は、虚構を娯楽として消費しながらもその裏にある「本当」を見たがります。芸能人のドロドロしたゴシップ、すぐ話題になりますよね。根も葉もない噂でも「もしかしたら本当かもしれない」と大衆が思えばすぐに広がってしまう。虚構があるからこそ、その裏にある真実の商品価値が高まるのかもしれません。三筒はそれがわかっていたからヒールユー・プロジェクトを商品にしようとした。

でも、その企画はよりによってゲームから生還した円果に一刀両断されます。倫理や感情の問題ではなく「ドキュメンタリーとしてのクオリティが低いから」。私ここで滅茶苦茶興奮してしまったんですよね。消費されることを恐れていた円果は、消費される人間として生きると腹を決めた途端にためらいなく自分を売れるんです。自己犠牲や自信のなさからではなく、コンテンツを提供するプロとして。ただでは売らせませんよ、僕を売るならちゃんとしたクオリティーのものじゃなきゃ嫌ですよと。ここまで強かな子になるとは思わずおったまげました。最高。心の中でペンラ振りまくった。

円果は一人称視点ばかりでクオリティが低いドキュメンタリーではなく、最初から撮り直したものを商品にすることを提案します。真実ではなく、真実を混ぜた虚構を売り出そうと言うんです。この提案、よくよく考えるとキリオたちゲームの中のキャラクターの救済でもあります。
『ウーユリーフの処方箋』のキャラクターたちは、前述の通りキャラクターとしてちゃんと生きていました。とはいえあくまでも円果救出のために用意されたキャラクターなので、円果がエンディングに辿り着くためにプロジェクトの参加者がアドリブを加えていたりもします。半分アバターみたいなものです。キャラクター一人一人にクローズアップする機会もなく、その魅力を掘り下げることができなかった。三筒たちが大衆に向けて発信したいのは「ゲームの世界から現実に帰ってくる円果と、そのために尽力する周りの人間」ですから、当たり前のことではあります。
大衆が楽しむためのゲームとして作るなら、世界観もキャラクターもストーリーもじっくり構成し直す必要がある。ここに来てキリオたちは「円果を救うために用意されたキャラクター」から「『ウーユリーフの処方箋』を彩るキャラクター」に昇華されるんです。現実の人物を基にした完全な虚構として受肉する。
『ウーユリーフの処方箋』の結末は変わらないでしょうし、円果がトラウマを克服することが映画のエンディングなのでしょう。それでも、彼らは彼らの言葉で話し、彼らの人生を歩んでいく。キャラクターとしての彼らはここで救われたんじゃないかと思います。

ちょっと脱線しましたが、「ラスト・レジェンドに出たタレントの物語」を、ゲーム『ウーユリーフの処方箋』の世界を交えて一つのコンテンツとして売り出すこと。それによって友喜と円果が再び歩き出すこと。これは虚構への最大の肯定だと思います。
キャラクターやタレントは、虚構を消費するプレイヤーやファンがいなければ成立しません。プレイヤーやファンもまた、キャラクターやタレントがいなければ消費者ではなくなる。虚構を通して繋がっている関係です。キャラクターやタレントがコンテンツを発信し、それを大衆が消費して話題を作り出す。双方がいて虚構の波が起こる。私たちがプレイした『ウーユリーフの処方箋』の結末は、その波を楽しんでいいんだというメッセージなんじゃないかと思います。もちろん虚構の消費には、綺麗なものも汚いものも付き纏います。虚構の波に飲まれて潰される人もいるかもしれない。それでも、全部ひっくるめて受け入れていいんだという消費者へのメッセージです。

巨大な虚構の波を起こそうとしている友喜と円果は、これから壮絶な苦労を味わうかもしれません。何しろ出来レースを包み隠さず公開するんです。きっと同情や批判やその他諸々あらゆる言葉を投げつけられることでしょう。それでも彼らは、自分を必要としてくれるファンがいる限り、自分の足で歩いていくんだと思います。

最後に

このゲーム、プレイしててしんど~~~~~い!!!って思うことの方が多かったんですが滅茶苦茶楽しかったです。まさか消費者としての自覚を問われるとは思ってませんでしたが。
このゲームのストーリーを楽しかったと思う人も、ストーリーに納得いかない人もどちらもいるはずです。それこそが製作陣が狙っていたことなんでしょう。いい感情だろうが悪い感情だろうが、この物語に、あのキャラクターたちに何か感じてほしかったんだと思います。
キリオたちに感情移入してしまうほど彼らが好きだった人の気持ちも、「ゲームの中で死んでいった彼らは報われない」と思う人の気持ちもきっと必要なんです。彼らに感情を揺さぶられたという事実こそが、コンテンツとして発信されたキャラクターの存在意義だから。
キャラクターそれぞれへの感想も書きたいんですが、クッソ長い文章になってしまったので次回に持ち越します。

このゲームを素敵な虚構として愛してます。ありがとうSEEC、ありがとうベノマ玲さん。