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正気に戻ったら負け

『蒼穹のファフナー』とかいうヤバいアニメを見てしまった

 「絶対に好きだから見てください」と数年前からフォロワーさんにゴリゴリ勧められていたアニメ、蒼穹のファフナー。結構ヘビーな作品だと聞いてなんとなく先送りにしていたら無料配信が始まったとのことで。今しかねぇ!と見始めてみたらあまりにも面白くて度肝を抜かれました。
 滅茶苦茶綺麗な空や海や街の描写、徹底的に掘り下げられたキャラクター、圧倒的質量でオタクを叩き落とすストーリー。なんだあれ。怖い。悲鳴を上げたりアホほど泣いたりしながらなんとかEXODUSまで完走しました。今は燃え尽きて塵になっております。
 世界観やストーリーが難解でしたが、フォロワーさんの副音声解説のおかげで一期もEXODUSも乗り越えられました………本当にありがとうございます。
 感情の整理とありがとうの気持ちを込めて、キャラクター中心に感想を書こうと思います。最初の方はネタバレなしでこの作品のここが良かったなってポイントを書きますので、まだファフナーを見てなくて「ちょっと気になるな~」って方がいたら参考にしていただけたら幸いです。

 

 

キャラクターの掘り下げ方


 一期からEXODUSまで徹底してこれがすごい。一期前半はキャラクターの内面が見えづらいところはあるんですが、少年少女の揺れ動く繊細な心や、戦争当事者であり子供を守る存在である大人たちの葛藤が緻密に描かれています。
 『蒼穹のファフナー』は宇宙から攻めてきたエイリアンをロボット(あれをロボットと呼んでいいのかわかりませんが)で撃退する、というお話です。私ロボットアニメってこう、子供が戦わなくちゃいけなくて大人が容赦ないイメージがあったんですよね。子供が甘いこと言うと「今はそれどころじゃねぇ!戦え!」みたいな。でもファフナーの味方サイドの大人は徹底して子供を大事にするんですよ。訳あって大人は機体に乗れないので、「本当は平和の中にいなければいけない存在を戦わせている責任」をみんな背負っている。だから子供が傷つけば苦しむし、率先して子供の盾になろうとする。極限状態の戦争を経験してるのにあまりにもまともなんです。
 メインキャラクターの子供たち以外にも、大人たちのそういう複雑な心情の描写には脱帽しました。本当にすごい。サブキャラクターにも感情移入してしまう。
 そんな大人たちに見守られているので、子供たちは戦いの中でも心は子供のままでいさせてもらえるんですよね。みんなでお祭りを楽しんだり、恋に悩んだり、子供として親に甘えたり。彼らは仲間である以前に「友達」として互いを大事にしています。もちろん戦いの最前線にいることには変わりないので、かえってそれに苦しむことにもなりますが。
 子供の心を抱えたまま、戦いの中を生き抜いていかなければならない彼らの葛藤こそが一期の醍醐味でしょう。劇場版や第二期のEXODUSでは前線に立つ子供たちの世代交代もあり、先輩になった彼らの成長にじんわりきました。

「生と死」「対話」というテーマ

 Yahoo!ニュースで「胃薬が必要なアニメ」と紹介されている通り、この作品は結構な人が死にます。メインキャラクターもモブキャラクターも関係ありません。誰だろうと死ぬときは死にます。
 正直そういうの無理、という人にはあまりお勧めできない作品なんですが、このアニメは「ただ人がたくさん死ぬアニメ」ではありませんでした。そのキャラクターが何を思って生きたのか、何のために戦って死んだのかを余すことなく見せてくれます。
 悲壮感を演出するためだけの死ではない。英雄として死者を祀り上げることもしない。メインキャラクターもモブキャラクターも大人も子供も、「誰かにとって大切な人、生きていてほしかった人」なんです。それをキャラクターが死ぬ前も、死んでしまった後も徹底して描いています。正直私がファフナーで一番好感度が高いポイントはここですね。
 生まれてくる命を尊び、死を嘆く。当たり前のことなんですが、カットせず細部まで描かれたそれは良くも悪くも心に響きます。根底にあるテーマの一つが「生と死」なんだろうな、と感じています。
 そしてもう一つのテーマが「対話」です。この作品はシリーズを通して「対話をする意味」を描きます。少年少女の拗れてしまった関係から終わりなき戦いの行末まで、全てを通して「対話」が鍵になります。ロボットアニメにしてはあまりにもテーマが有機的というか、人間の感情に寄っているところが面白いんですよね。
 このテーマは大変アツい展開に繋がります。

 なんかもう私が語るより見てもらった方が早いので、以上を読んでくださってまだファフナーを視ていない方は今すぐYouTubeを開いて『蒼穹のファフナー』を見てください。無料配信は6月30日までだ!!週末頑張れば一期くらいならいける!!!もし見逃してしまっても、7月からBS11で一期の再放送があるぞ!!よろしくな!!!


 ここからはキャラクターの感想です。キャラクターの内面とかお互いの関係性についてがメインになります。
 ファフナー、登場人物がみんな魅力的な上にちゃんと一人一人にスポットが当たるんですよね。キャラクター同士の関わり合いも複雑なので、群像劇として本当に面白い作品だなと思います。
 ちなみに私は一期、ROL、HAE、EXODUSしか履修していないので、BEYOND、ドラマCD、小説の内容は感想に含まれません。

 

真壁一騎


 主人公。仲間を大切に思い、敵との対話を諦めないという主人公らしさを持っていますが、お話を追ってるうちにこいつ……テンプレ主人公じゃないな……!?と気づきました。彼、考えれば考えるほど底が知れなくて恐ろしくなります。

 一騎の底抜けの優しさや相手を理解しようとする姿勢は朱音さん譲りなんでしょうね。人当たりも良いので色んな人に好かれています。ていうか人たらし。その人が一番欲しい言葉をピンポイントで投げる無自覚攻略王です。無差別に撃ち落とすんじゃない。
 一期の頃はなんというか、優しいようでいてそれドッヂボールじゃない?みたいな対話の仕方をしてましたが(例:カノン説得)、年を経てボールを投げっぱなしにせずちゃんと対話できるようになりました。成長したね一騎。
 彼は一期の頃から年の割に落ち着いた態度が多いように感じます。現状が理解できずに取り乱すとか、戦いへの強い恐怖を感じるとか、そういうことが全くないんですよね。もちろん多少は少年らしい未熟さを持っています。戦いの中で自分の意志が定まらず惑ったり、勢いで行動することもありました。
 しかし一度決めたことへの迷いのなさ、痛みや苦しみをものともせず自分の命をドンドコ削る意志の強さはどこか人間離れしています。そもそも人間らしい精神的な弱さとも無縁です。弱さからの成長という点なら剣司の方が主人公らしいくらいです。人間味が薄いんですよ、真壁一騎という男。
 そんな一騎が迷ったり、取り乱したり、怒り狂ったりする唯一の存在が皆城総士。もう本当にすごい。総士が関わると途端にスイッチ入る。いっそ清々しいまでの総士センサー。一騎の総士への執着はあの日の事故から始まったんでしょうね。ついでにあの人間味のなさもここから来ている気がします。

 幼い頃の一騎については詳しい描写がないためわかりませんが、彼はきっと今と変わらず友達を大事にする子だったんだと思います。輪の中で中心にいるようなタイプだったかもしれませんね。
 ところがあの日、一騎は総士を傷付けてしまった。総士には消えない傷跡と失明した片目が残り、一騎は彼に謝れないまま自分がしたことをなかったことにされました。根が優しくて誠実な一騎は、大事な友達を傷つけた自分を受け入れられなかった。仲の良い友達が目の前で血塗れになって呻いていて、しかもどうやら自分がやったらしいなんてそりゃトラウマもんです。直前の記憶がないので混乱もしていたんでしょう。彼は自分がやったと言い出せずに逃げ出してしまいました。壮絶な自己否定の始まりです。
 一騎は何故自分が総士を傷つけたのかもわからず、総士も何も言わない(言えない)から一人で罪悪感を抱え続ける。どれほど後悔しても総士の視力は戻ってこないし、総士は怒っていて自分を許さないつもりだと思っているので(実は許されるどころか感謝されてるんですが)、自分を責め続ける。それまで築いてきた友情に比例して罪悪感が膨らんでいく。雁字搦めですね。
 一騎は「ずっと居なくなりたかった。俺なんか居なくなればいいって」と一期で言いました。自己嫌悪が完全に希死念慮に至っています。そんな感情を長年抱え続けた結果、人間として当たり前に持っている死への恐怖が抜け落ちてしまったんでしょうね。妙に人間ができているのに虚ろに感じたのはそれ故なのかもしれません。「消えてしまいたい」と思っているので、戦いで傷つくのも死ぬのも怖くありません。「総士のために戦って死ねば許される」とまで思っていそうですね、この頃の一騎。

 でも、一騎の中にはまだ「ここにいたい」という思いが残っていました。本当は自分がどこにもいないのが怖かった。総士の心を理解したい、その上で総士と一緒に戦いたいと願っていた。だから一騎は総士と対話する道を選びました。自己否定の原因が総士なのに、そこから抜け出すきっかけも結局は総士なんですね。
 あの日本当にあったこと。総士はとっくに一騎を許していて、一騎の与えた「痛み」と傷こそが総士の救いだったこと。それを知った時、一騎にとって総士の存在が罪悪感の対象(自己否定の根源)から自分を肯定してくれる存在(自己肯定の根源)に変わったんだと思います。
 「お前のおかげで僕が存在する」なんて、それはもう絶対的な存在の肯定じゃないですか。罪悪感の元だったあの行為が「皆城総士」という存在を確立したんですよ。それまでの自己否定なんて消し飛ぶくらいの強烈な肯定です。
 総士の苦しみの一端を理解した一騎は「いなくなりたい」という思いを捨て、「自分の意志で総士と一緒に戦うこと」をここにいる理由として定義しました。総士はここで一騎の存在意義になったんでしょう。
 ていうか皆城総士真壁一騎の人格形成にほとんど関与してるっていうか、ほぼ皆城総士を中心にして真壁一騎という人格が形作られてない……??なんなの………???

 一騎は一期の途中でマーク・ザインを手に入れます。フェストゥムの同化能力を自在に使う恐ろしい機体ですが、フェストゥムを理解しようとした朱音さんの息子である一騎が乗るに相応しい機体ですよね。
 EXODUSからが顕著ですが、ザインはその力を使って地獄の中で苦しむ人々を救う「救世主」の象徴になりました。一騎の変性意識も「自分の力で多くの人を救いたい」といったものになるようです。まんまメサイアです。
 一騎のこの心、総士との関係から芽生えたんじゃないかなと思っています。元々人類軍だろうと誰だろうと助けようとする人の好さはありましたが、総士との和解でそれがさらに強化されたというか。総士を救ったことで自分の存在を肯定した一騎にとって、誰かを救うことが存在意義になっていったんでしょう。つまりは皆城総士真壁一騎を救世主にしたということになりますね。いや、皆城総士、本当に何………?
 皆城総士真壁一騎を定義するものであり、アイデンティティであり、切っても切り離せない半身なんでしょう。もう運命という言葉すら軽く聞こえるほど深い繋がりです。
 命の循環の中で巡る総士と、命の循環を超えた一騎。一騎が老いる体なのか、そもそも寿命があるのかもわかりませんが、それでも二人はこれから何度でも出会うんでしょうね。時には形を変えながら、何度でも。

 一騎が総士の他に特別視している存在が遠見真矢です。一騎は彼女に対して、総士への感情とは真逆のベクトルの想いを抱いているんじゃないかなと思います。地獄の底だろうと総士がいる場所が一騎の行くべき場所ですが、一騎が総士と一緒に帰る場所は真矢の隣なんでしょう。
 真矢は一騎に恋愛感情を抱いていますが、今のところ一騎にそういう感情はなさそう。ただ確実に他の幼馴染とは一線を画したところに真矢の存在を置いてるっぽいですね。一騎にとって真矢は「日常の象徴」「自分を竜宮島に繋ぎとめてくれる存在」のようです。
 非日常の中で変化していく自分に不安を感じた一騎に、真矢は「一騎くんがどんなに変わっても、私、一騎くんのこと忘れないよ」と言いました。この竜宮島で一緒に育った、ただの少年だった一騎のことを覚えていると。この言葉があったから一騎は安心してファフナーに乗れるんでしょうね。どんなに自分が変わってしまっても、真矢が自分を覚えていてくれるなら帰ってこれる。一期終盤では真矢がみんなの腕に竜宮島の座標を書いています。いつだってみんなを故郷に結び付けるのは真矢なんです。
 一騎は真矢は優しい日常の中にいるべきだと考えているので、彼女をなるべく安全な所に留めようとします。でも自分は戦うし無理して命を削る。それを真矢が望んでいないことも、それで傷ついていることも多分わかっててやっています。お前はそろそろ真矢ちゃんにいっぺん殴られた方がいいと思う。
 この二人はお互いのことを心の支えにしていますが、世界が平和にならない限りお互いの心を救うことはできないんじゃないかと思っています。「真矢には安らかな日常の中にいてほしい」という願いも「戦いより一騎の命を大事にしてほしい」という願いも、お互いに叶えてあげられないからです。きっと戦いの中で寄り添い、護ることしかできないんでしょうね。切ない関係です。

 真壁一騎はまだまだわからないことが多いんですよね。本当に感情の底が知れなくて怖い。彼についてはドラマCDや小説やBEYONDを見た後、改めて感想を書き直すことになりそうです。見当違いなことを書いてたら笑ってください。


皆城総士


 長髪美少女顔なのに普通に声低いし中身はゴリラメンタルだった。いやほんと最初の印象から大分変わりましたね。思っていたより愉快で可愛い男でした。ピーチ姫になったりフェストゥムになったり赤ちゃんになったりと忙しない男です。まぁ赤ちゃんは別人格っぽいですが……。

 勤勉で真面目、神経質で細かく合理主義な典型的理系脳野郎です。根は優しいので周りの人のことはとても大切にしますが、本人の不器用レベルがカンストしているのと立場上大っぴらにできないのとで場合によっては1ミリも通じません。不憫。とはいえ一騎に比べたら遥かにわかりやすい男です。
 総士は結果的に家族を全員失うことになるのが切ないですね。その辛さや寂しさを隠してしまえるのが彼の悲しいところです。きっと幼馴染たちが心の支えになっていたんでしょうし、だからこそ誤解されてでもみんなの命を守ろうと冷たく振舞っていたんでしょう。理解してもらえてよかったね総士。何もない部屋にみんなと撮った写真だけ置いてあるとこ好きだよ総士

 彼のことは一騎の存在なくして語れません。一騎は総士が「皆城総士」になるきっかけの存在であり、総士アイデンティティの一部です。
 「自分がどこにもいないなら一騎と一つになりたい」と願ってしまうくらい、幼い総士の中で一騎の存在は大きかったようです。自己が曖昧な総士に寄り添ってくれた子だったんでしょう。
 その上、一騎を同化しようとした(フェストゥムになりかけた)自分を彼は拒否してくれた。総士にとっては「お前は俺じゃない、お前はここにいるぞ」と言われたようなもんです。皆城総士」という自我を作ってくれた存在といっても過言ではありません。そりゃあ絶大な信頼を寄せるし依存もするというものです。
 ただ一騎がとてつもない罪悪感に苛まれてるのを哀れに思いつつ喜ぶのはお前、気持ちはわからなくもないがそういうところだぞ………と思ってしまいますね。もしかして一騎にずっと自分のことで悩んでてほしくてあえて話さなかったの?割とありえそうで怖い。

 一期開始時点で普通に一騎のこと大好きなんですよね彼。「そんなに一騎君の気持ちに入り込みたいの?」「それはいけないことかい」という会話にスペキャ顔していた頃が懐かしいです。なんだよあの会話。未だにちょっとよくわかんないよ。
 島に帰ってきてから一騎を始め幼馴染の記憶ロックが外れたので、総士には「ようやく同じものを見られる」という安心があったんだと思います。一騎がファフナーに乗るようになってからはクロッシングで考えてることもわかるし、嬉しかったんでしょう。そんなこんなで調子に乗ってたらダイナミック家出かまされてショックを受ける総士。可哀そうだけど対話を怠ってきたので自業自得ですね。許してるなら許してるって言ったれや。この頃の総士の、頭が良い故の不器用さというか、無自覚な一騎への甘え、今思い返すと可愛いです。
 彼は誰かに自分の感情を伝えるだとか、お互いの気持ちを理解し合う術を学ぶ機会がないまま育ってしまったのかなと思います。もちろん公蔵さんは総士を家族として大切にしていたんでしょうし、総士もお父さんのことを大切に思っていました。でも公蔵さんは島の代表かつ島のコアを護る者なので、総士には自分がいずれ背負うものを説かなければいけなかったんでしょうね。それはもう一人の家族である乙姫を護ることでもありましたから。
 幼い頃から役目を意識して生きてきた総士は、下手に有能だったのもあってか酷く不器用な少年になってしまいました。傍にいたのが絶大な信頼を寄せる一騎や、言葉を尽くさずとも気持ちを察してくれる真矢だったから、それに甘えていたのもあるかもしれません。だから対話じゃないと気持ちが伝わらないことがある、ということが指摘されるまでわからなかったんでしょう。
 自分を理解しようとしてくれる一騎や、時々叱りながら気持ちを伝える大切さを説いてくれる真矢がいたからこそ、総士は周りの世界と繋がれたんでしょうね。乙姫もきっと不器用な兄のことが心配で色々と気を回してくれたんだろうな。良い妹を持ってよかったね総士

 総士ファフナー、マーク・ニヒトは存在を無に還す「否定」の名をつけられた機体です。総士は過去に竜宮島を襲ったこの機体のことを憎んでましたが、ある意味総士でなければ乗れない機体ですよね。
 総士は一騎によって同化を「否定」されることで自分の存在を確立した人間です。一騎に与えられた痛みと目の傷が「皆城総士」を定義しています。そんな総士だからこそ、一期で攫われた時フェストゥムに教えたのは「痛み」でした。無に還る時の痛み、消失への恐怖、それこそが今生きている(存在している)証です。
 エメリーにも「フェストゥムに痛みを与え続ける存在」と言われていますね。一期ラストでフェストゥムに「痛み」を教えた総士は、朱音さんと同じように彼らに大きな傷を残したのかもしれません。ニヒトを通じて総士フェストゥムに与える「痛み」は、今後の重要な鍵になりそうですね。

 一騎に並び、総士が並々ならぬ感情を向ける相手が遠見真矢です。私一期視てた時、フォロワーさんに教えてもらうまで真矢ちゃんのこと好きって気づかなかったんですよね。わかりづらすぎるぞ総士
 一騎は総士の一部にも等しい存在なので別次元で特別ですが、一騎と同じく総士にとっても真矢は「自分を日常に繋ぎとめてくれる存在」として特別なんでしょう。優しい日常の象徴である彼女の傍にいると安心したのかもしれません。
 総士「遠見は僕らにとっての地平線だ」という言葉、二人には訳わからんと一蹴されてしまいましたが的を得ていると思います。空と地の堺。戦争と平和フェストゥムと人間。戦いに溺れそうになっても、真矢が日常に引き戻してくれる。自分が何者かわからなくなっても、竜宮島で一緒に育った真矢が自分たちのことを覚えていてくれる。真矢はそういう存在なんだと思います。それ皆城言語的には愛の告白だったりしない?
 彼なりに真矢を戦闘から遠ざけようとしたりフォローしてみたりしてますが、真矢は全く彼の気持ちに気付かない上に何より一騎を心配しているので取り合ってもらえません。まぁ総士の伝え方が下手くそだしな。さらに一期では一騎への接し方を責められる始末。「いつも泣かれるのは僕だ」というぼやきが切ないです。二人でいる時、いつも沈んだ顔か泣いてる顔しか見てないもんね………。
 真矢的に総士は完全に恋愛対象外なので、EXODUSでは嬉しくないラッキースケベに見舞われています。本当に不憫。涙拭けよ総士………。
 きっと総士総士で、真矢にわかってもらえなくてもいいと思ってるんでしょうね。単に不器用だからアタックできないのもあるかもしれませんが、真矢の隣に居るべきなのは自分じゃないとわかっているんだと思います。EXODUSで新国連から飛行機で帰る時の座り方なんか二人の距離感そのままです。総士は真矢の隣にはいない。いつもちょっと後ろで見守ってるんです。そして真矢が自分を見てない時だけすごく優しい顔をする。つくづく不器用な男ですね。
 総士にとって真矢への想いは、自分が大切に抱えていればそれでいいものなのかもしれません。呆れと諦めと寂しさと愛しさが滲んだ「わかっちゃいないさ」という囁きで私は死にました。本当にあれは喜安さんに頭が上がらない名演技です。
 総士は消える時も真矢への言葉を遺しませんでした。想いを語らず抱えて逝った総士、切ないけど好きです。
 ところで小説とかに真矢に惚れたきっかけ書かれてないんでしょうか。滅茶苦茶気になる。

 EXODUS最終話では、「総士」という名の子供の手を引く一騎が描かれました。私この子供は二代目であって総士ではない(乙姫と織姫みたいなもの)と思ってるんですが、よりによって「総士」と名付けたのか………一騎………そりゃ確かに総士の生まれ変わりだろうけどさ…………正直嫌な予感しかしていません。
 ここからは紛らわしいので一期~EXODUSの総士を「総士」、それ以降の二代目総士を「こそうし」とします。語る内容はほぼ妄想です。
 自分と同じ容姿、同じ声、同じ名前の存在がいるのって、自分のアイデンティティが揺らぐと思うんですよ。もしそんな存在が目の前にいるなら「お前は僕じゃない」と否定できます。自分がここにいるんだから、相手は偽物のはずだと。ところが「総士」は既にいません。以前いた人間の名前で呼ばれ、残された写真と自分の顔は年々似ていき、周りの人間が自分を見る目に懐かしさが滲んでいる。自己が確立される前からこそうしがそんな環境に置かれたらどうなるか。簡単にアイデンティティの崩壊を引き起こすんじゃないでしょうか。
 自分が「自分」だと思っていた人間は存在しないのではないか?この自我こそが偽物で、前の「総士」こそが本物だったんじゃないか?自分は総士のために用意された器なんじゃないか?そんな思考に陥る可能性もあります。最初の総士の幼少期とは別の形の「僕はどこにもいない」という思考ですね。てかこれ人類軍のパペットじゃねーか。アッだからCMでプロメテウスたちに攫われかけてるの!?いやわからんけど!
 もちろん竜宮島の人たちは馬鹿ではないので、総士とこそうしを切り離して接してくれるでしょう。総士のものはこそうしの目につかないように管理しているかもしれません。でも一騎は、一騎だけは、果たしてそれができるんでしょうか?
 彼は他でもない、自分の半身である総士と「互いの祝福の彼方で会おう」という約束を交わしてしまってるんですよ。そんな言葉を残された一騎が、あの子を別の存在として完全に切り分けられるんでしょうか。あの約束があったから「総士」という名前を付けたんじゃないのか一騎。いや誰が付けたとか聞いてないけどお前だろ絶対。竜宮島は「名前は祈りにも呪いにもなる」ということを義務教育で教えた方がいいと思います。
 そもそもこそうしがどんな生活を送るのかも今はまだ知らないんですが、なんかこう、大きな歪みを抱えたまま成長しそうで怖いです。CM見た感じ不安定っぽいし。君は君らしく元気に育ってくれ~~~~~~~~!


遠見真矢

 みんな大好き真矢ちゃん。私の推し。いかにもヒロインぽい可愛らしい子だな~~って思っていた時期が私にもありました。ファフナーの戦闘がかっこよすぎて「ゴルゴじゃねーかwwww」とか言っていたら本当にゴルゴになってしまった。そういう……そういう意味で言ったんじゃないんだ…………なぁ………真矢ちゃん……………。
 シリーズ通して精神面の変化が著しいキャラクターですね。彼女の変化が良いことだったのかそうでなかったのか、未だに自分の中で答えが出ていません。
 冒頭で感情が限界を迎えているあたりでお察しの方もいるかと思いますが、彼女の項はクソ長くなります。EXODUSで負った傷が深いので許してほしい。

 基本的に友達思いで優しい女の子です。明るいけど押しつけがましい明るさではありません。本当は結構落ち着いた子なんだと思います。人の心の機微に聡いので、そっと寄り添うような優しさで人に接することができます。だから不自由故に複雑な心を抱えた翔子とも仲良くなれたんでしょうね。
 人と人との橋渡し役をすることが多い子だなと感じます。一期では総士に対話の必要性を説いていました。話さなくても相手の感情を見抜ける能力を持っている真矢が「対話をしろ」と言うのが面白いですね。聡いからこそ、言葉を交わさないコミュニケーションでは足りないことをちゃんと理解しているんだと思います。
 彼女は他人に説くように、自分も相互理解のために言葉を尽くすことを惜しみません。一期からEXODUSまでその姿勢は一貫しています。彼女が一騎や総士に言葉を尽くさなければ、総士が一騎と本当の意味でわかり合うことはなかったかもしれません。一騎がカノンを説得することもできなかったかもしれない。乙姫と一緒にさりげなくこのお話の命運を左右してますね。
 彼女は人と人との橋渡しはバンバンしますが、自分が誰かと深く繋がろうとすることは意外にもありません。もちろん同期組とは仲が良いですし、カノンに悩み相談をしたりもしてますが、こう、自分のことわかって!みたいなアピールがないというか。仲良くなった人たちを眺めてニコニコしてるイメージです。幼馴染の集合写真に真矢だけ映っていないのとか象徴的ですね。真矢は写真を撮る側で、その中にいないんです。一期の真矢がこの写真を見つめて零した「私はどこにいればいいんだろう」というセリフ、故郷の平和から遠ざかっていくEXODUSの真矢に繋がってるなと今気づいて死にました。みんなの傍にいればいいんだよォ!!!!!!!

 真矢は平和な日常や、自分の周りの人間をすごく大事にしています。みんなが仲良くしてる時が一番嬉しそうですね。千鶴さんや弓子さんは優しく、普段からコミュニケーションもしっかりとれているようなので、家族仲が父を除いて良好だったことが影響しているかもしれません。ミツヒロはなかなかのモラハラクソ親父っぷりでしたが、昔は優しい時もあったようです。そういう経験や記憶が今の真矢のベースにあるんでしょう。
 そんな真矢なので、上で散々書いた通り一騎と総士にとっては「日常の象徴」です。二人が人間として大事なものを忘れないよう、時には言い聞かせ時には引っ張り戻しています。あの二人は物理的にほぼ人間をやめてしまっているので、真矢がちゃんと引っ掴んで留めていないと人間でいられなさそうですね。
 一騎と総士はお互いがお互いの存在意義でありアイデンティティであり半身なので、たとえお互いがどんな存在に変わろうと「真壁一騎」と「皆城総士」であればそれでいいんでしょう。だからこの二人が竜宮島で育った「真壁一騎」「皆城総士」という人間として存在するためには、二人のことを覚えていてくれる真矢が必要不可欠なんだと思います。二人にとって帰るべき場所の座標です。

 彼女は優しいだけのヒロインではなく、優しさ故に武器をとろうとするヒロインなんですよね。一期で自分だけファフナーに乗れなかった時も、仲間と一緒に戦えないことに孤独感と罪悪感を抱いていました。本当に大事なものは率先して守りたいんだと思います。それ故に「日常の象徴」だったはずの真矢は、どんどん戦いの中へ飛び込んでいくようになります。
 真矢の変性意識は驚異的な冷静さ。多分他のキャラもそうですが、変性意識って普段押さえつけている感情が表に出てるんじゃないかと思っています。なのであの真矢の冷静さ、容赦のなさはもともと真矢の中にあった一面なんでしょうね。ミツヒロの血を感じます。
 最初はファフナーに乗った時のみ表出していたそれが、EXODUSでは真矢を侵食していきます。真矢は交戦規定アルファを実行しようとした爆撃機を撃ち落としてしまいました。「わかり合えなかった人間を殺す」ということが、真矢の変化の引き金になったようです。

 真矢はファフナーの側でしか休まなくなり、弓子さんに貰った銃をいつでも撃てるように持っています。臨戦態勢を解けないんです。というか、自分の意志で「何でも冷静にできる自分」でいようとしています。いや本当にしんどい。一騎や総士を日常に繋ぎとめていた他でもない真矢が、日常に戻れなくなっているんですよ。この真矢を目にした時の一騎と総士の悲しみは計り知れません。
 ここで一騎が真矢を思って言った「遠見は竜宮島に帰ってくれ、一人で背負うな」という言葉が、さらに真矢を後戻りできないところまで推し進めてしまったんだと思います。だって彼女は「誰かを護るために武器をとる女の子」ですから。誰かに背負わせるくらいなら自分がやるんです。
 だから真矢は一騎を狙った工作員を射殺しました。ファフナーに乗っている時じゃないんです。変性意識下の判断じゃないんですよこれ。自分の意志で、必要とあらば人を殺す覚悟を決めてしまったんです。真矢ちゃん……………。
 暉に人殺しを指摘された時、真矢はいつもと変わらない微笑みを浮かべるんですよね。人を殺したのに悲しくならない。涙も出ない。心が麻痺した真矢は、もう後戻りできないところまで来てしまいました。
 真矢もそれを自分でわかっていたから、「自分は竜宮島に帰っちゃいけないかもしれない」と思い始めたんでしょう。竜宮島は人同士で殺し合いはしません。平気で人を殺せるようになってしまった自分には、あの平和な島に居場所はないんじゃないか。

 でもそんな真矢に一騎は「一緒に帰ろう」と言います。今まで散々真矢の願いを蹴って自分の命を削っていた一騎が、「一緒に生きて竜宮島に帰ろう」と言うんですよ。真矢が一騎にずっと望んでいたことです。
 この一騎の言葉が真矢の麻痺した心を日常に戻しました。真矢はそこで初めて一騎が髪を切ったことに気づいて、久しぶりに心の底から笑うんですよね。今まで真矢が一騎を日常に繋ぎとめていたけど、初めて一騎が真矢を日常に引き戻す役割になりました。よかったね、真矢ちゃん…………(嗚咽)

 でも真矢の覚悟がガン決まっていることには変わりありません。真矢は新国連に拉致られた後、ダスティンを殺し、フェンリルを起動して交戦規定アルファを撤回するようへスターを脅します。「こうでもしなきゃ話し合えないのが人間でしょ」って言うんですよ彼女。人間は話せばわかり合えると信じていた真矢はもうどこにもいないんです。自分の命も犠牲にできる子になってしまったんです。真矢ちゃん…………(二度目の嗚咽)
 さらに真矢は「人を殺した責任」も背負おうとします。真矢はダスティンの仇討に来たビリーに殺されようとしました。「誰かの大切な人を殺した自分は憎しみを受け止めるべきだ」と覚悟していたんです。結局それは溝口さんに阻まれますが、代わりに彼女は果たされることのなかったビリーの怨嗟を背負うことになります。このアニメ、なんでヒロインにばっかり重たすぎるもの背負わせようとするんですか???????
 その後の真矢、美羽を抱きしめようとして、自分にビリーの血が付いているのを思い出して止めるんですよね。でも美羽は構わず真矢に抱き着いて「みんなを守ってくれてありがとう」と言います。護るために人を殺し、それでも姉と姪の親友を失った真矢に「ありがとう」って言うんです。美羽に縋りついて泣く真矢が本当に………真矢ちゃん…………………(三度目の嗚咽)
 美羽の感謝は「あなたに救われた人はいるんだよ、あなたは竜宮島にいていいんだよ」という許しでした。真矢は決して人を殺した自分を許すことはありませんが、それでも確かに救われたんでしょうね。
 BEYONDの真矢がどんな風に変わっているかはわかりませんが、きっとみんなを護るために誰よりも戦場を駆け巡っているんでしょう。それが頼もしくもあり、哀しくもあります。

 一騎の項でも触れた通り、真矢は一騎に片想いをしています。クライミング中に落ちそうになったところを助けられたのがきっかけなんでしょうか。一期では親友の翔子が一騎に恋していることを知っているので、自分の気持ちは抑え気味でした。なんだかんだ今も結構控えめですね。健気な女の子です。
 真矢の感情は確かに恋であるはずなんですが、彼女、上で書いた通り相手に気持ちを求めるということを全くしないんですよね。自分の方を向いて欲しい、自分を好きになって欲しいという気持ちを全然出さない。状況が状況だし一騎はドンドコ命を削ろうとするので、それどころじゃないと言われてしまえばそれまでなんですが。求めるよりも与えたいタイプなのかな、と思っています。
 彼女の愛は傍で相手を支えることなのかもしれません。献身的で、かといって盲目でもない。その人にとって何が一番必要なのかを理解して与えようとする。彼女の生まれ持った天才症候群が影響しているんでしょうね。
 彼女はずっと一騎に平和な日常の中にいてほしいと願っていますが、一騎が一騎である限りそれは叶えられない願いなんだと思います。一騎は誰かを救うために自分の命を使うと決めてしまっていますから。もちろん簡単に死ぬつもりはないようですし、EXODUSでは短冊にでっかく「生きる」と書いていましたが、一騎は自分が平和な日常から遠ざかっていくことを惜しみません。真矢がいる安心感が戦いへ後押ししている部分もあるかもしれませんね。何があっても真矢がいれば竜宮島に帰ってこられるから存分に戦える、みたいな。真矢からすればたまったもんじゃありませんが。
 一騎は真矢が心安らかに過ごせる竜宮島にいてほしいと思っていますが、彼女にとっての日常って「一騎を始めとした大切な人たちがいる竜宮島」なんですよね。竜宮島で平和な日常が続いていようと、そこに一騎がいなければ意味はないんです。だから真矢は大人しく待ってなんかいないで、一騎の傍で戦おうとします。強いヒロインです。
 一期EDテーマの「Separation」ファフナーの曲の中では特に好きで、真矢から一騎に向けた歌っぽいなと思っているんですが、EXODUSの一騎から真矢に向けた歌にもとれる気がしています。変わってしまった相手を悲しく見つめて、せめて傍にいたいと願う歌。二人らしいなと思います。
 一騎と真矢には、平和になった世界で穏やかに想い合う関係になってほしい気持ちでいっぱいです。

 真矢の総士への気持ちは複雑ですよね。幼馴染として大切に思ってはいるんでしょうが、総士と一騎の不和には昔から思うところがあったんだろうなと感じます。一期で再会した時からずっと、総士と二人きりの時の真矢は笑いません。
 真矢は持ち前の洞察力で、一騎が総士に後ろめたさを感じていること、そして激しい自己嫌悪に陥っていることを察していたんだろうなと思います。もしかしたら総士の目に傷をつけたのは一騎だと気づいていたかもしれませんね。総士に当たりが強いのは、彼が一騎のこと大好きなくせに思い悩む一騎に何も伝えようとしなかったから怒っていたんでしょう。好きな男の子の苦悩の原因が目の前にいたらそりゃ怒るわ。おまけに総士、その状況をちょっと喜んでる部分もあるし。お前本当にそういうところだぞ。
 総士が一騎と和解した後は若干態度が軟化しましたが、それでも穏やかな交流はあまりありません。というか初期の総士が真矢に冷たい態度を取ってたので、そもそも総士からは嫌われてると思ってるんですよね彼女。あの天才症候群を持った真矢に1ミリも気持ちが伝わってないのはある意味すごいぞ総士
 総士は一騎の存在意義でありアイデンティティであり半身なので、この世界にいる限り一騎を戦いに駆り立てる存在です。総士の諸々の事情を理解できてはいても、一騎を平和から遠ざける彼には複雑な思いがあるんでしょう。同時に、一騎のことを一番に考える者同士のシンパシーみたいなものもありそう。
 でも総士が一騎を想ってすることと真矢が一騎を想ってすることは全く違います。総士は一騎に命を削ってほしいとは思っていませんが、一騎が本気で決めた選択なら総士はそれを受け入れます。最終的に自分が隣にいればそれでいいと思っているところもあります。それに対して真矢は一騎が生きていること、平和な日常に戻ることを何より望んでいます。一騎のことを想っているのは同じなのに永遠にわかり合えない。平行線ですね。
 真矢は、一騎と総士なりに真矢のことを大切に思っているのはわかっているんでしょう(総士の恋心は別ですが)。でも二人が真矢だけ平和の中に置いていこうとするのは気に食わない。真矢は二人の間だけで世界が完結して、いずれどこかに行ってしまいそうだと感じているのかもしれません。だから二人を日常に繋ぎとめようとする。そんな真矢だから、二人は真矢の傍が心地いいんだと思います。
 BEYONDの真矢とこそうしはどんな関係を築くんでしょうね。もしこそうしが真矢に淡い憧れを抱いていたりなんかしたら私は目を焼かれて死にます。ていうかもう一騎と真矢がこそうしのパパとママになれば万事解決じゃない??ダメ???ダメだよな………知ってる……………。

 本当は他の幼馴染組とか第二世代第三世代のことも書きたかったんですけど、三人書いただけで文字数がえらいことになったので次回に回します。この三人、密度がとんでもないな?
 長々お付き合いいただきありがとうございました!!EXODUSの感想も今度ちゃんとまとめたいな~~~~!!!